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最終更新2021/10/15(詳細はUPDATE)

プリンスヒューマノイドの結末

泡になった人魚姫が生きていた、その後の世界。
人魚姫が死んでから2000年、俺の生活が劇的に変化してから一年。

どう変わったかと言えば、


以前:身内以外に声を聞かれると死ぬ。(本当は、地味な顔の男の子しか生まれないと言う、地味な呪いだった。つまりデマ)

現在:他人を長く見つめたり、話し掛けたり、笑いかけたりすると、相手が死ぬ。


原因は全て、性悪魔法使い。
ノストラダムスの予言は、ある意味当たっていたに違いない。


何せ、性悪魔法使いと人魚姫の間に生まれた子供の子孫である「姫井大輔」が、俺に告白してきたのだから。




「ハッピーミレニアム」

爽やかな笑顔で抱きついてきた姫井は、キンキラキンの金髪の襟足だけが長い、チャラチャラした見た目の美形だ。だからとんでもなくモテる。
去年までは。

「ひ、姫井。八王子が潰れてんぞ」
「…あ?テメェ、誰のモン見てんだ、殺すぞ」

たった一年。
されど一年。
高校卒業前に、めでたく?姫井と真の意味で結ばれた(と言うか逃げられなくなった)俺。
以降、俺にちょっかい掛けてくる人とか話しかけてくる人が居ようもんなら、何処かからか飛んでくる姫井によって片っ端から倒されていった。

「…」

相変わらず、両親と姫井の前でしか喋る事を許されないヘタレな俺。
たった2ヶ月もしない内に姫井にはチームと言うものが出来てしまい、『マーメイド』と言う可愛い名前の巨悪不良組織の皆から、俺は『王子』と呼ばれる様になった。

名字が八王子だから、じゃない。
姫井が強制したからだ。

姫井を含め、八人の幹部は白雪姫の小人と呼ばれているそうだ。
つまり、俺が黒幕で、皆に命じて悪の限りを尽くしてる、みたいな。とんでもないデマが回ってるらしい。


「マクロ休講だって。午後から暇になっちまったな、飯どうする?」

俺の髪を弄びながら、無駄に顔を近づけて宣う姫井の左手が、俺のお尻を揉んでいる。
ぷるぷる震えながら、分厚い眼鏡(うっかり他人を見つめない様に買った伊達眼鏡)越しに、足元を凝視した。

「ニューヨークの寿司バーに行ってみるか?昨日の番組、物珍しそうに見てたろ?」

ブンブン頭を振ったのは、今からニューヨークなんか行けるか!と言う意味ではなく、それを姫井なら出来てしまうからだ。


魔法使いの地味な呪いを受けた俺の祖先、つまり人魚姫が愛した王子とその妻である人間の姫。
二人の間に子供が産まれた時、泡になった筈の人魚姫が魔法使いによって無理矢理復活させられ、求婚されていた。いや、半分強姦だったんじゃないかなって思う。姫井が俺にやったみたいな…。

とにかく、人魚姫が産んだ可愛い可愛い娘にも、魔法の力が備わっていて。
王子の子供も娘だったらしく、醜い嫉妬(と、我が娘の可愛いと言う親馬鹿さ)から、王子夫妻に呪いを掛けた魔法使いに、人魚姫はちょっと呆れた。


そして、娘にお願いする。
いつか私達の子孫と、王子様の子孫が結ばれる様に。地味な王子様なんて、嫌だもの。
魔法使いの力は強力で、娘の力ではとても解けそうにないから、預言者の力を借りて、おまじないをしましょう。



人魚姫の生まれ変わり。百番一目の子孫が生まれた時、王子の呪いは解ける。
1999年後、子孫は必ず結ばれるだろう。



「八王子君って、喋らないし何か暗いけど、ちゃんとしたら格好いいんじゃないかな〜」

学食のテーブルで姫井を待っていると、観葉植物を挟んで背中側から女の子の声が聞こえてきた。
ビクッとしながらキョロキョロ辺りを見回し、姫井の背中が会計の前にある事を認めて息を吐く。

こんな事知られたら、どうなるか。いや、俺は何にも悪くないんだけど…。

「変な趣味!姫井君を誑かした魔性の男でしょ?ネタだと思ってたのに、あの二人本当に付き合ってるんだって」
「えー、嘘でしょ?」
「聞いたのよ。二人と同じ高校だった奴が、高校時代に二人が図書館でキスしてたって!」
「いやー、ホモきもーい」

冷や汗がダラダラ流れた。
去年、卒業前までは実家暮らしだった俺達。家では勿論いちゃつけないから、学校でキスもエッチもした。姫井が一方的に。

姫井は父子家庭で、先祖代々続く地主のお父さんは、俺を見るなり土下座した。
亡くなった姫井のお母さんから、何百回も聞いていたらしい。王子の子孫が生まれたら、土下座してでも『別れないでやって欲しい』とお願いしろ、と。

『お前と別れたら地球ぶっ飛ばすよ、俺は』

晴れやかな笑顔で言った姫井は、実の父親をビビらせながら俺に頬擦りした。
地主でありとある大企業の社長でもある姫井パパは、その子会社で働く親父ギャグ大好きなうちの父親を買収し、その美形さでうちの母親も買収し、高校卒業と同時に同棲させた。

まぁ、俺だって嬉しかったから良いんだ、けど。姫井の束縛が益々酷くなったのは、言うまでもない。

あれが食べたい、あそこに行きたい、などとうっかり言えば、誰と食べたいとか誰と行きたいんだとか不機嫌になる姫井。
友達所か姫井以外に会話する相手も居ない俺が、ベッドの中で泣きながら姫井と行きたいと言うまで、姫井は許してくれない。

「だから八王子はキモいんだって」
「喋んないんじゃなくて、喋れないらしいよ。障害者だから」
「えー、そんな奴が何でうちの大学に居るのー?」

結構、酷い生活だろう。
うん、判ってんのにヘタレだから俺。


「おい、そこのビッチ共」

姫井の携帯番号しか入っていないスマホ(然も四六時中一緒にいるから全く使わない)を何となく眺めていたら、観葉植物の向こうから聞き慣れた声が聞こえてきた。

「人のモンを話のネタにしてんじゃねぇ、殺すぞ」

女の子の悲鳴、姫井の低い声。いや、ギャグじゃない。
何かが割れる音が聞こえてきて、ズレた眼鏡をそのままに慌てて立ち上がる。

「やっ、離して姫井君っ」
「ごめんなさいっごめんなさいっ」
「煩ぇ」

カシャン、と。
足元に眼鏡が落ちた。
姫井の長い足が見える。自分より小さな女の子の頭を鷲掴んで、無表情で睨んでいた。


魔法使い。
然も性悪な。
ヘタレな俺が逆らえば泣かされるのは判っている癖に、俺の悪口を言っていた相手でも、女の子には酷い事をしないで欲しいと思う。

フェミニスト。
王子の血がそうさせるのか、否か。とにかく、



「大輔!」

腹の底から叫べば、食堂中が静寂に包まれた。
眉を吊り上げた姫井が振り返ったけど、まだ女の子の頭を掴んだままだったから。

「いい加減にしないと…!別れるからな!」

ギッ、と。ヘタレなりに頑張って姫井を睨めば、青ざめた姫井は慌てて女の子から手を離し、素早く俺の前で土下座した。姫井パパと同じ土下座だ。

「ごめんなさい、もうしません、別れるのは勘弁して下さい。グスングスン」
「女の子に暴力奮う奴は嫌いだ!」
「もうしません、もうしません、うっうっ、許して下さいグスングスン」
「はぁ。…やっぱり、言いたい事は言うべきだよな。喋んないのって結構キツい」

うんうん頷けば、青ざめてるギャラリーの中から、高校時代にクラスメートだった姫井の幼馴染みが近付いてくる。

「は、八王子…お前、喋れたのか?」
「喋れるよ。俺が喋ったら、姫井が俺の声聞いた奴を殺すって言うから喋んなかっただけで」

俺の足に抱き付いて鼻を啜っている姫井を軽やかに無視し、開き直ってそう言えば、流石に魔法使いだからではなく、マーメイドの総長だからと言う理由で、皆一瞬で逃げていった。

「あーあ。喋っても喋らなくても…結局、一緒かぁ」
「皇一」

名前を呼ばれて下を見れば、ぐちゃぐちゃな涙顔の姫井が見上げてくる。
うーん。何か、可愛いかも知れない。いつも俺様な癖に、こんな表情をするなんて。

「わ、別れたく、ない」
「どうしようかなー。俺だけ喋ったら駄目とかあれしたら駄目とか、制約多いもんなー」
「う」
「別れて欲しくないんなら、俺の言う事ちゃんと聞ける?イイコにしてたら、別れないであげるけど」

我ながら偉そうな事を言った、と冷や汗ダラダラ流していると、晴れやかな表情で何度も頷いた姫井がぐりぐり頬擦りしてきた。

「聞く!ちゃんとイイコにしてるから、俺!」
「え」

その日以降、何か普通に喋っても良くなった筈の俺は、マーメイドの総長の飼い主的扱いを受け、やっぱり友達が出来ないまま大学を卒業してしまうのだが、それはまた別の話。



「あ、皇子!社長見ませんでした?!」
「あー、うん。社長なら俺の背中に張り付いてます」

父親の会社を継いだ姫井の秘書として、コーイチではなくオージと呼ばれる様になった俺の名字が姫井になるのも、もっと別の話。

「大輔、仕事しないならお仕置きエッチ抜きにするぞ」
「ほ、放置プレイと二者択一とか…!グスングスン」

性悪魔法使いも、溺愛が絡むとただのワンコになると知った俺が、サドに目覚めたりしたのは…まぁ、どうでも良い話か。

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