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最終更新2021/10/15(詳細はUPDATE)

ファミリア×パラサイト

唯一の肉親だった親父が死んだ。


糞ヒトデナシだった糞ヤクザの糞組長だった糞親父だが、まぁ、今になれば悪い親ではなかったと思えるから、死ねば誰もが英雄だろう。

最低な男だった。
母親はいつもいつも笑っていたけれど、若い組員とトンズラするほどには満身創痍だったらしい。


そりゃ、あっちこっちそっちこっち愛人ほいほい作りやがる下半身ゆるゆるの糞野郎だったから、呆れ果てて一人息子を置いていってしまったのも仕方ないっちゃ、仕方ない。
まぁ、取ろうと思えば連絡が取れない程でもないが、如何せん、それほど愛情も未練もないのだから、どうでもいい話だ。


「組長!此処にいらっしゃいましたか、大変ですぁ!」
「誰が組長だボケ!俺ぁ継がないっつってんだよ!」

残った組員総勢80人と組織、無駄にデカいだけの古びた屋敷、糞な匂いがする遺産と言う名の金。

すこぶる自然な流れで反抗期を迎え、すこぶる自然な流れで大学入学と共に反抗期と別れを告げていた俺は、何度も何度も、就職する度に糞ヤクザの肩書きに邪魔されクビになるパターンを繰り返し、三十路過ぎてそれでも必死に就活に励んだ結果、去年内定を貰ったばかりの企業で春からサラリーマン家業に生き甲斐を見出していた。

やっと慣れてきた秋の暮れ、ハロウィンに愛人の元旦那から刺された糞因果応報としか言えない糞親父の葬式。
それが、今日だ。


「良いか!俺ぁ絶対、会社辞めねぇぞ!何度も何枚も履歴書書いて、やっと今の社長に拾って貰ったんだ!何の為に今まで組には一切関わらず、平凡に穏やかに生きていく為に頑張ったと思ってやがるっ」
「ボン、平凡な人間はグレて関東制圧した挙げ句ワシら極道脅して遊んだりしませんよぉ」
「黙らっしゃい!」

バシッと厳つい組員を殴りつけ、着慣れない喪服のジャケットを脱ぎ捨てる。

「つーかボン、今の会社は、」
「俺は帰るぞ!」
「ええ?!ちょ、ボン?!」

今は歳末の忙しい時期だ。バリバリ頑張る営業リーマンに、休憩など許されない。いや、弔休にはなるんだが。

「ったく、組長でも何でもそっちで勝手に、」
「勝手に、何?」

笑う声に足を止めた。
黒い喪服を着こなした長身が、僅かに幼さを残した整い過ぎる顔に笑みを浮かべこっちを見ている。

「アンタが継がないなら俺が貰っちゃうよ?」
「…何だ、お前」

誰かに似ている気がした。
親父よりもずっともっと、誰かに。サラサラの金髪、細い癖に筋肉を纏っているのが判る、成長途中の躰。


「俺、昔のアンタに似てるらしいね?」

見開いた目に、嘲笑う赤い唇が映り込んだ。


ああ。
彼は、母さんの目に似ている。



17年前、中学生だった息子の上で喘いでいた、女に。


「オニイチャン」
「っ」
「いや、…オトウサン、かな?」

ああ。
鏡。鏡だ、これは。騙されるな、違う、これは鏡だ。

「俺の三番目の義父さんがさ、最近面白い奴拾ったって言うから、見に来たよ」
「ま、さか」
「ババアは俺を置いて、先月自殺しちゃった。…はは、義父さんの前で俺の上に乗ってるの見られちゃったんだ。馬鹿な女」

頭がガンガンする。
組員らの足音が近付いてくるのを聞きながら、


「…何が、望みだ」

喉が乾く。

「行く所がないんだ。俺は母さんにも義父さんにも見捨てられたのに、何でアンタは義父さんに拾われて、実の親からも愛されてんの?」

近付いてくる、近付いてくる。
糞ヤクザな、でも子供には際限なく優しかった親父と。糞ヒトデナシだった母親から生まれた俺に、近付いてくる。



「ねぇ。…俺だって、愛されたいの。」

その手を掴んだ先は、今よりずっと重い禁忌だろうか。



20130118

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