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最終更新2021/10/15(詳細はUPDATE)

騙臣高等学校執行部の日報

騙臣(かたらべ)高校は偏差値の割りに美形が多い、だが…と専らの噂だ。
読んで字の如く、文字通り“変人高校”と言う2つ名で近隣住民の危機感を募らせる一方、騙臣高校入試の競争倍率が年々増える理由には、当然ながら在籍生徒の偏差値の高さが上げられる。

変人しかいない騙臣高校、と密やかに笑われながらも年々受験数が増えるのだから、噂の大半は僻みや羨望による所が大きいだろう。


騙臣高校の一日は、白髪が増えた校長でも生真面目な教頭先生でも美形疑惑がある理事長でもなく、生徒会の校内放送で始まる。

いや、生徒会と言う名だけの、


「ぴんぽんぱんぽぉん♪騙臣高校生徒会執行部、略してヘンジンジャーからイカ臭いテメェらに朝の挨拶ですよ」
「コラコラ、それは俺様の台詞じゃないか執行ブルー。全く、お前は目立ちたがりさんだな」

変人による変人の為の…良く判らない民放で、校内は沈黙した。黄色い声が響いている所を見ると、放映中の二人は人気者らしい。

「何はともあれ、生徒の諸君!今日も元気にオ●ニーしたか?因みに昨日の俺様は3発、」
「下ネタ撲滅ぅううう!!!」
「ぐはァ」

各教室に設けられた液晶テレビの画面に、顔色が悪い細身の男から鮮やかな回し蹴りを受けて吹き飛んだ、赤毛の美形が映っていた。

「美形の自家発電撲滅ぅううう!!!」
「ごはァ」

長閑な8時半とは思えない溌剌ドメスティックなオープニングだが、画面から外れた所で何が起きているのか、とりあえず音声だけで想像してみようか。

「あちゃちゃちゃちゃちゃ」
「ごふォ、げほォ、ひでぶ」
「ふぅ。ご自分の発電能力自慢する暇があるなら世界征服しましょうよ、会長」
「俺様を会長と呼ぶなブルー…ゴホッゲホッ、か、会長じゃない、執行レッドだ。ぐふっ、ごふっ」
「はぁ。どうせ私は108の病に犯された童貞で根暗で病弱で顔色が悪い、お先真っ暗のブルーですよ。ああ、この世の美形が憎い…」

漸く顔色が悪い細身の男が、血塗れの赤毛を鷲掴み引き摺りながら画面に舞い戻る。
ずーるずーるずるり、ぺちょっ。顔色が悪い割りに怪力らしい男が自分より大きな赤毛を放り、胸元から藁人形を取り出した。


「ああ…何やら今日もブルーな気分です。ワッキー君のアクセサリーも心成しか歪んでますね…」

錆びた釘だらけだ。

「他人など…全て不幸になれば良いのに…」

無表情で藁人形の首を捻った男の足元で、首元を押さえながら藻掻く赤毛が見られた。

「はっ。いけない、人間共が滅びてしまえば世界征服する意味がなくなってしまう…」

ぺっ、と放り捨てた藁人形が赤毛の頭に落ちる。

「ゲフ。…ふ、今日も良い蹴りだった、流石だよ執行ブルー。病弱に似合わずバイオレットフィズめ、お前に酔いそうだよ」
「世界中の美形を虐殺し世界中の美少女を跪かせるまで死んでも死にきれない…」
「ほう、ロリコンだったのか」

グッと親指を立てた赤毛に、何やら瓶を取り出した顔色が悪い細身の男は、無表情でその瓶の蓋を開けた。恐らくその顔色と漂うマイナスオーラがなければ、極上の美形だと思われる。

「極めて平凡な男の欲求だ。妹萌えしない男など、ただのリア充爆破しろ」
「慰めは良いんです会長。貴方を緑色に染めて、私が執行レッドの座に上り詰め、騙臣高校を独裁下に置きます…ふふ、ふふふふ…」
「待てブルー、それは硫化水素じゃないか?確かに肉を腐らせて緑に染まるだろうが、うっかり俺様も藻掻き死ぬよ」
「確かに凄まじく苦しいかも知れませんが、最も美しく半永久的に残る死体ですよ。羨ましくも憎めしい会長の美貌を、我が校の肖像として永遠に受け継がれて…」
「青柳、貴様は全てグロい。滅亡しろ」

すぱーん、とハリセンで顔色が悪い男を叩き弾いた新たな生徒が、艶やかな黒髪を掻き上げる。

「そもそも我が校は男子校だ愚か者が、滅亡しろ」
「テールコートにハリセン。ふむ、ナイスコラボだよ黒川君。いや、ボスブラック」
「放送事故ならまだしもテロレベルだったぞ、執行レッド。俺が風紀委員会でなければ核爆発を巻き起こしていたに違いない。速やかに朝礼を進メロディー」
「おぉ、手間を掛けたなボスブラック。音楽を愛するお前の語尾に、可愛らしいサンリオキャラが見えるよ」
「当然だ」

しゃらん、と扇子を開いた赤毛の男より数段美しい黒髪の男が、何故か執事めいたテールコートを翻し笛を取り出す。
アルトリコーダーだ。

「ぷぴー、ぴーひょろろー」
「我が校の優秀なる諸君、今日と言う何の変哲もない月曜日を平凡に過ごせるよう、各自絶え間ない努力に励んでくれ」
「ぷ…ふぅ。ぷ、ぷひ、ぴゅふーん」
「ボスブラック、君の笛の音はいつ聞いても惚れ惚れするほど下手だな」
「光栄だ」

ふ、と照れた様に髪を掻き上げた黒髪の美貌を余所に、見た目だけなら不良系会長は優雅に片手を上げた。
足元でピクピク痙攣している顔色が悪い男には、最早誰も目を向けていない。

「さて。我が生徒会レンジャーでは、引き続き執行イエローと執行ピンクを募集している」

極☆平凡、と言う扇子をパチン、と閉じた赤毛に、

「我が騙臣高校生徒会執行部で、実に何の面白味もなく平凡に励みたい生徒は、一階生協横の目安箱にプリクラ付き履歴書を投函してくれ」

ぷひー、と空気の抜けたリコーダーを奏でる美形執事。
見た目はワイルド美形だが、恐らく良家の子息にありがちなステレオタイプとの相性は、目に保養・耳に毒、と言った按配か。


「そろそろ薬の時間です…」

もそりと起き上がった顔色が悪い男と言えば、常備薬の定期服用時間だとミネラルウォーターの蓋を開けている。

画面の中は晴れやかにカオスだった。

「今ならもれなく書記職か副会長職をプレゼント。あ、俺とプリクラ交換したい奴は抽選会に来なさい、今ならサインと握手も付けるから」
「先着6000人に俺とレッドのチュープリをプレゼントしてくれよう。非凡な貴様ら、庶民たる凡庸が如何なるものか、その目で確かメロディー。ぷぴー」

下手くそなカッコーをBGMに、騙臣高校朝の放送が終わりを告げた。



「………」

それを咥え煙草で眺めていた無精髭の教師が、長閑な職員室でずるりと肩を落とす。

「緑山先生、どうかなさいました?」
「いや…ぶっちゃけ何で他の先生方が普通なのかお聞きしたいんですがね…」

首を捻った初老の教師に、煙草を揉み消した男がふらふら立ち上がった。行きたくない。行きたくないが、始業ベルは待ってくれない。

「………胃が、痛い。」

緑山は特進クラスを受け持っている。

「赤碕も青柳も黒川も…転校してくれないかな。………特に黒川」
「呼んだか、イズミ」

ぬぅ、と現れた執事にビクッと飛び上がった何の変哲もない中年サラリーマンと言えば、抱えていたプリントを撒き散らし、

「今日も、その不衛生極まりない貴様の髭は愛らしい。俺の純潔を貰ってくれ」
「ひ、ひぃいいい、断る!断じて断る!お断りしますー!」

ずずずい、と迫ってくる無表情の美貌に半泣きだ。

「それは酷いぞ緑山教諭。ボスブラックの健気な求愛を、大して悩みもせず断るなどと…」

気配なく現れたモサモサ黒髪の瓶底眼鏡に、ちょろりと涙が零れた中年教師の前で美形執事がリコーダーを取り出す。

「ぷふぃー…」
「聞いたか、ボスブラックの悲しい音色を。緑山教諭、生徒会顧問にして我が校の従僕たる教諭には、極めて平凡且つアグレッシブに悩んで頂き、結果的には黒川君の純潔を奪って頂きたい」
「あ、あ、あ、赤碕生徒会長。俺は社会人で男でしがない国語教師でしかない君らの担任であって、」
「緑山先生…貴方は美しくないので見逃して来ましたが…」

無表情で下手くそなリコーダーを吹きまくっている執事を余所に、ぬぅっと現れた顔色が悪い細身の生徒が耳元で囁く。驚く前に凍り付いた教師へ囁くには、

「高が日給取りの下僕が…我が騙臣高校の理事長様であられる黒川風紀委員長の求愛を断るなんて、虐殺刑に値しますよ」

どうやら彼は権力に弱いらしい。

「ふ、ふふふ…先生は黙って大人しくしていらしたら宜しいんです。ふ、ふふふ…そうすれば黒川風紀委員長…いや、騙臣理事長が手取り足取り…ふふふ」
「青柳、ボスブラックは我が執行部レンジャーのパトロンながら極めて平凡な高校生だよ。奥ゆかしい彼は童貞なんだ」
「赤碕、貴様イズミの前でそんな破廉恥な事を…!」
「大丈夫ですよ黒川風紀委員長…、緑山先生は男の子ですが穴はあります。最初は軽い拷問でしょうが、死ぬ訳ではありません。美しく死ぬならこの瓶の蓋を開けて…」

無表情ながら真っ赤に染まった美形執事に、もっさりルックながら無駄に態度がデカい瓶底眼鏡、地獄の閻魔も逃げ出す忍び笑いを漏らす顔色が悪い生徒…、


一年も保たず転校していった元書記と元副会長は、今頃何をしているやら。


「イズミ、俺の純潔は貴様の為に在る。どうか貰ってくれ」

美形、確かに美形だが、教え子で雇い主と言う、男子生徒からの求愛など受けてたまるか。
再三の辞表は悉く目の前の美形執事によって破棄されている。今や逃げ出さないよう見張りをつけられ、毎晩目の前の美形執事所有のマンションに強制連行だ。その内、ストレスか青柳の黒魔術で死ぬだろう。

「会長、緑山先生の顔色がグリーンですよ。私はまだ瓶の蓋を開けていないのですが…」
「緑山教諭が執行グリーンだったのか。良し、では今より緑山教諭をグリーン司令と呼ぼう」
「グリーン司令、俺と結婚して欲しい」

液晶テレビの中も外もカオス。
無慈悲な始業ベルが高らかに鳴り響き、一人の教師を除き、今日も長閑な騙臣高校の一日が漸く始まった。



此処は変人ばかり、ではなく、普通の人間が三日で逃げ出す騙臣高校。
年々増加傾向にある倍率は、増えゆく変人奇人を指し示しているのかも知れない。


「羨ましいよボスブラック、俺様も緑山教諭の様に極めて平凡な妻が欲しい。いっそ妻になりたい」
「緑山先生とうまくいったら私が仲人みたいなものですよね、黒川風紀委員長。その時は世界征服の資金援助、宜しくお願いします…ふ、ふふふ…」
「イズミ、キスしたい。赤碕と練習してきたから、大丈夫だ。俺に任せてくれ」


日本の明日はどっちだ。



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200704
捧げもの加筆改変

- 騙臣高等学校執行部の日報 -
*めいん#
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