メインアーカイブ

最終更新2021/10/15(詳細はUPDATE)

そして僕は淫らに喘ぐ。

「…オレは燃え尽きたぜ」


東西南北、古今東西。
つまり全国津々浦々、今も昔も、世界の仕組み事態はそう変わっていない筈だ。


ほんの一世紀前まで電球の存在さえ知らなかった人類に、トーマス=エジソンは颯爽と現われたのである。多分。
汽車の中で飴玉を売っていた少年時代を経て、人命救助の英雄となり、神掛かり的な経歴から32歳の若さと聡明さで人類に光を与えたのだ。



「うーん、哲学的なボク」

テスト前に異常な情熱を燃やし勉強に励む学生、なんて東西南北、古今東西。右向いても左向いても溢れまくってる。
然もこの上、次回のテストで赤点など叩き出したら追試すっ飛ばして留年確定の出来損ない学生となれば、帰宅部バイト知らずのぐうたら学生、将来的にはニートのエリートか。

「いや、ニートは嫌だな」
「俺が養ってやる、気にせず人生を踏み外せば良い」

背後から喉に巻き付いてきた冷たい指の感触、頬に吐息が触れるほど近くから腰砕け必死の低い声。
これがうら若き美少女だったら、古今東西、過程を無視してお母さんになってるかも知れない。


そんな妊娠させる声を持つ『天才大馬鹿野郎』に、ただでさえ連日俄か勉強中のエリートニート候補のテンション鰻下がりだ。
そんな言葉があるのかどうかは知らないが。



「…出たな、歩く変態マッドサイエンチスト」
「良いな、いつ聞いても平均取得点数21点を誇る英語力だ。惚れ直したぞ」
「オレを馬鹿にしたな!オレを馬鹿にしたな!」

喉に巻き付いた手をバシッと振り払い、クルッと振り返って、すぐに見えた薄いレンズのシャープなインテル眼鏡を睨み付ける。何だかWindows的なアレが入ってそうな眼鏡だな。

「それを言うならインテリジェンス、インテリの間違いだな」
「あ、そうなん?次からそれ使お」
「夜のお供に俺を使うなら、電話一本くれるだけで良いと言うのに…奥ゆかしい奴め、流石だ俺の大和撫子」
「日本武尊ならオレの先祖に違いねーがな、お前のもんでもなければ大和撫子でもない、あっちいけ」
「舐める前に手だけでイク癖に、大和撫股。俺の愛撫に震えるお前の股間が愛おしい」
「早いって言いたいのか!畜生、毎回毎回人にセクハラしやがってこのド変態が!オレを馬鹿にすんな!オレを馬鹿にすんな!」

眼鏡野郎の癖に白衣を愛用している奴は、男のオレを好きだと公言して憚らないド変態だ。
出会って一年半、オレの股間が何度コイツのセクハラ被害に泣き寝入りした事か。
最後は結婚してから、とか何とか抜かす変態眼鏡は、遂にこの間、オレの慎ましい、ご飯とおやつとジュースを食べいつか可愛い彼女にチューするべく存在している唇ちゃんに、とんでもないモンを突っ込もうとした。

「俺がいつ馬鹿にした。こんなに溺愛していると言うのに」
「お黙りなさいっ、お黙りなさいったらお黙りなさいっ!」

それが俗に言うフェ何とかだと知っているオレは、あの時ばかりはバーサーカーになったのである。
本気で殺すかと思いました。して貰うのは良いけど、するのは嫌なんです。

ムズカシイお年頃。

「三段論法を引用した俳句調、新しいな。季語が見当たらないのが残念だが、だからこそ新しいとも言える。愛してる、愛してるったら、愛してる………素晴らしい愛の響きだ」
「うっさい、喋んな!お前はムズカシイ事ばっか言ってオレを惑わそうとする悪魔だ!」

全く、クールな顔で尻撫でやがって。黙ってれば東西南北、古今東西、近年稀に見る超美形の癖に、入学式一発目からコイツはコイツだった。
理事長の孫で可愛がられて育ったらしいコイツは、エジソンが飴玉を売っていた12歳の時に何とか大学の博士号を取得したとか言う、とんでもない天才らしい。

入学式一発目のその説明に化粧を塗りたくっていた母親共が騒めき、颯爽と姿を現した長身眼鏡美形に女子が騒ぎまくれば、奴は新入生代表挨拶の前に全校アイドル昇格決定的だった。



然し、呆然としている男子や羨ましげな男子とも違う反応をした新入生が一人。
入学式一発目から爆睡モードだったオレも、流石に目を醒まして極度の混乱から席を立ってしまったのだ。



『…ああ、そこに居たのか、ハニー』

マイク越しに妊娠させる声が響いて、壇上の眼鏡野郎が朗らかに笑う。それまでの無愛想さが嘘の様だった。


オレが腰を抜かしたのは決して腰砕けになったからではない。
話せば長い様な短い様な、入学式の朝、入学式を控えている実の息子より用意に忙しいオカンが余所行きの服をとっかえひっかえ、馬鹿馬鹿しくて待てなかった息子は一人初めての登校にスキップ混じりで。

いや、実際スキップしていたのだが。とにかく、校門を潜る直前だ。
まだ時間も早かった為に、集まってる生徒もまばらで、受付の教師も準備している所だった。

それに迷わず向かっていったオレの腕を、悲劇の幕開けが掴んだのだ。



『お前は、東洋の神秘か?』
『はあ?』

そんなナンパにしては不可解な、全く意味が判らない台詞をのたまった眼鏡野郎が、暫し考え込む振りをして、何を思ったのかいきなり抱き付いてくる。

『なっ、何事だぁあああ?!気分が悪いのかっ?早速保健の美人(仮)センセー呼んで来てやろっか?!それか美人女医さん!近所の大学病院から!』
『医者が好みなのか?』
『白衣の天使は男の憧れじゃね?』

今思えばオレは馬鹿かも知れない。初対面の奴に自分の性癖を暴露する様なもんだ。
興奮して眠れなくなるエッチィDVDはベッドの下に隠せ、オレの部屋にベッドはない。

布団の下に隠して初日に見付かったオレ、優しい母ちゃんは布団を干してDVDをリサイクルショップに売ってきた。


売ったお金で算数ドリルを購入。
オレは違う意味で眠れない夜を過ごしたりした。



『大和撫子、…漸く見付けたぞ』
『はい?』

あんまり抱き付く腕が力強いから、必殺メガトンパンチをお見舞いする前に冷たい指の感触が頬に触れて、



『むー!』


哀れ、入学式の校門を前に、ロストファーストキスを果たしたオレ、当時15歳。
エジソンが駅長の息子を人身事故から救った年だった。



そんなこんなで遥か昔の様な入学式から早一年半、高校二年のオレは、入学式から全校生徒公認で変態に追い回されてる可哀想な美少年なのだ。
昨日聞いた新しい噂には、オレはこの変態眼鏡に毎晩喘がされて妊娠寸前らしい。幾ら学年最下位の留年候補でも知っている、赤ちゃんは女の子にしか産めないんだ。

「産めるぞ、男でも」
「うん、お前はエスパーか」
「…そうだな、このまま大人しく卒業を待つのも良いが、どの途俺の扶養家族となるのだし…」

何か考え込み始めた白衣を一瞥、テスト初日の校門を見上げ今正にオレは闘いの一歩を踏み出したのである、



「決めた、善は急げだ」
「ぅお?!」


そしてオレは空を飛ぶ。
エジソンにも出来なかった事ではなかろうか、なんて言ってる場合じゃないのは確かだ。


「な、」
「婚前交渉は趣味では無いのだが、致し方あるまい。流石にお前を想像しながら自家発電に勤しむ虚しい夜には飽きてきた所だ」
「何、何、何、」
「お前が留年になろうが退学になろうが、俺の配偶者になるからには学業など不要に等しい。俺も学生ゴッコには嫌気が差した頃だ、自主退学して起業するのも良いな」

何で学校が遠ざかるのかが判らない。キーンコーン、と言う間延びしたチャイムが聞こえたのに、何故オレは逆方向に飛んでいるのだろう、ああ、東西南北・古今東西、判らない事ばかり。

「ちょ、留年!留年しちまうからっ、戻ってくれぇえええ!お願いしますっ、後輩と仲良くお勉強なんて想像しただけで切ないぃいいい!!!」
「お前がどうしても学生生活に未練があると言うなら、卒業まで俺も付き合ってやる。だが家事と学業の両立は大変だぞ?」
「折角勉強したのにっ、昨日も六時間しか寝てねーのにっ、誰かぁっ、センセーっ、助けてぇ!」
「まぁ、良い。家事は分担すれば良いのだし、お前が両立すると言うなら俺も大黒柱として三足の草鞋を履こう。
  高校に通い、家事を熟し、起業した会社を育て、夜は毎晩妻を満足させる………四足の草鞋か、遣り甲斐がある」

ブツブツ呟く変態が真っ直ぐ地獄に向かっていく。
このままじゃコイツのマンションに直行だ、初めて迂闊にも遊びに行った時から何度も何度もセクハラされてる地獄のマンションだ!


「やだ!やだやだやだ、口ですんのは嫌だぁあああ!!!」
「何を言っている、フェラなどさせずとも二人一緒に満足出来るんだ。ああ、この日をどれほど待ち侘びた事か…」
「…ホント?口に突っ込んだりしねぇ?あ、でも舐められるのは、別にいい」
「判った、撫でられるより舐められる方が好きなんだな、俺の大和撫股」

マンションのエレベーターで下ろされて、すぐ間近に綺麗な顔が見えた。この顔だけなら好きなんだよ、うん、笑うと尚いい、変態発言が嘘みたいだ。


「んっ」

それから、キスも大丈夫。

寧ろキスしない日はちょっとイライラするから、例えば違う奴とキスしてんじゃないかとか、変態の癖にこのオレに飽きたんじゃないかとか、うん、考えただけで殺意が芽生える。


「あっ、でもお前っ、オレが留年したらお前も留年しろよ!一人で後輩の群れに放り込まれたら、」
「留年などしないぞ、俺は。大学院を卒業しておいて、高校留年は頂けないだろう」
「ひっ、酷いっ、やっぱ学校行く!遅刻してでも行く!途中からでもテスト受けるー!」
「だから、俺は理事なんだぞ?お前一人程度の内申など、如何様にでも改竄出来る」

変態の台詞は呪文だ。
オレが馬鹿なだけじゃない筈だ。

「カイザンって、何」
「つまり、お前が俺の配偶者として家事に勤しむ日々を送ろうが、在籍さえしていれば通学しないでも卒業証書は与えてやると言うんだ」
「えっ、じゃ、家でゴロゴロしてても学校卒業出来るの?」
「ああ、俺は理事だからな」
「つまり、お前が理事長の孫だから?」
「まぁ、祖父様には既にお前が俺の嫁である事は報せてあるし、卒業と同時に入籍する手配も済ませてあるし、
  …お前が気付いていないだけでご両親への挨拶も済んでいるし、な」

何かまだブツブツ呟いてる変態の白衣を引っ張って、ズカズカ通い慣れた廊下を突き進む。
東西南北、古今東西、気持ちが良い事が嫌いな人間は少ないと思う。

つか居ない、多分。



「相変わらずお前の家、ゴーカだよなぁ。いいな、オレもこんなマンションに住みたいなー」
「今日からでも構わんぞ。着のみ着のまま、同棲するにはお前の身一つで十分だ」
「え、同居?でも何か悪いじゃん、それに此処の家賃なんてきっと、半分ぽっちだって払えないし」
「家賃?そんなもの要らない」
「お前…実は良い奴だったのか?」


綺麗な顔が近付いてくる。
ぱたり、と後ろに倒れて、ふかふかなベッドに沈み込んだ。



「どうしても支払いたいと言うなら、体で払ってくれれば良い。夫婦とはそんなものだ」
「え、やっぱ口に突っ込むつもりかっ!」
「今日はしない。約束する」

テスト勉強明けの、六時間しか寝てない頭は、学校に行かなくて良くなった途端元気になった。現金な奴だ、オレ。



「愛してるぞ」


この呪文を二人っきりの時に聞くと、何て言うか、こう、きゅんってなるんだ。
変態は所構わず言うから嫌だ、殺したくなるし。



「好い加減、俺のものになれ」



何だか新しい呪文を聞いたオレは、次に目が覚めた時には自分の家になるだろうマンションの寝室で、近付いてくる綺麗な変態に目を閉じた。






エジソン。
東西南北、古今東西。その中央、つまり今現在のボクが学んだ事をお知らせ致します。



男同士のエロスは凄かった。



「………」
「どうした、まだ足りないか?」
「…これ、これから毎日しなきゃいけねーの?」
「ああ、夫婦とはそんなものだ。特に俺達は新婚みたいなものだからな」
「ソ、ソウデスカ」



病み付きになりそうな、古今東西。

- そして僕は淫らに喘ぐ。 -
*めいん#
[21/54]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -