いつも無口だが、彼は意外と熱い人、だと思う。
そうシャンクスに言ったら一蹴された。
「熱い鷹の目なんざ気色悪ィだろ」
…それも酷いが、熱いという言い方がおかしかったのかもしれない。
だが情熱的なんて言葉は口に出すのも恥ずかしくて、言えなかったのだ。
ワインをグラスにあけながら、マリアはそんなことを考える。
シャンクスに劣らぬ酒好きで、好むのはラムばかりかと思いきや、こんなものも飲む。
濃厚な紅色が似合うのも正直意外な気がする。彼と言えば、黒と金―――いずれにせよ、勝手なイメージでしかないのだけれど。
マリアがグラスとボトルを盆に載せて居間に持っていくと、ソファに悠々と腰かけて本を読んでいるミホークの姿が見えた。
そばに黒刀がないからか、普段よりも印象がやわらかい気がした。組んだ長い足の上で、定期的に頁を繰る大きな手。文字を静かに追っているだろう金色の瞳。
「…なにを見てる」
視線も合わさずにミホークが一言。
「…べつに? 特に理由はないわ」
やはり格好いい……なんぞと思ってしまったことは秘密だ。見惚れていたなどと言いたくはなかった。
こっちを見ないということは、どうやらその本は彼のお気に召したらしい。マリアは邪魔はすまいと運んできたお盆をサイドテーブルに置き、立ち去ろうとする。
「待て」
「……なぁに?」
「こっちへ来い」
「……なんでよ?」
「ここにいろ」
本から目を離しもしないくせに、そんなことを言いだすミホーク。若干呆れかけるが、いちいち呆れていては到底彼とは付き合っていられない。―――否、一緒に過ごしていられない。
マリアは軽くため息をつき、ミホークが座っている一人用のソファのそばにある、二人掛けのソファに座った。
「………」
沈黙には慣れている。彼と共にいる間に限って、静けさが冷酷さのあらわれではないことをマリアは知っている。
だが手持無沙汰なのはたしかで、ふとミホークが読みふける本を見やると、それが恋愛ものであることに気がついた。
「…意外なもの読んでるわね」
「そうか」
「恋愛ものになんて、興味ないと思っていたわ」
「恋に興味など無いが、愛に興味が無ければお前と共にはいない」
言い放ち、また大きな手が頁をめくる。
思わず呆気にとられて開いた口がふさがらなかった。
これは、相当自惚れたくなったって仕方ないだろうとマリアは思う。
彼が繰った頁からちらりと見えた言葉は、「好きだ!」。
―――思わず、苦笑が漏れた。
「……ねえ、」
「なんだ」
「それ、おもしろい?」
「いや」
「……あら、そう」
ミホークが一息ついて、サイドテーブルのグラスからワインを一口含む。
「この男は疲れる」
「その、本の主人公?」
「好きだ好きだと叫びすぎる」
「……女のほうは?」
「裏切ってはまた舞い戻る馬鹿な女だ」
「……気をつけるとするわ」
「予定でもあるのか?」
「べつにないけど」
初めてミホークが本から視線をあげてマリアを見据える。
この金色を文字から引き剥がせたことに、ちょっとした優越感を覚えてしまう私が、彼から離れられるわけがない。
「でも、その男は馬鹿かもね。好きなんて言葉はそんなにたくさん要らないもの、女としては」
「そうだな」
「……わかるの?」
「おれはお前に好きだと囁いたことなど無い」
そういえばそうだ。それに、これまたマリアの勝手な思い込みだが、「好きだ」なんて彼にはまったく似合わない台詞だった。
「愛している。それだけでいい」
ぶっきらぼうにさえ聞えかねない低い声音で呟かれれば、もうそれだけで十分すぎる。
百万回好きだと叫ばれたって、この一言には到底敵いはしないだろう。
「……やっぱり、熱いわね」
「なんの話だ」
「秘密」
好きを知らない
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