この船にいる人たちはみんな宴が大好きで、食べるのも騒ぐのも、酒を飲むのも大好きだ。
海賊たるものは皆こうなのか、マリアは知らない。マリアにとってはこの船が最初に乗った海賊船であって、そしておそらく最後だろう。
けれど、マリアが想像できる「海賊」の姿をそのまま体現したような、そして船長としての気迫も魅力もすべて注ぎ込んだような人がいるから、別に他を知りたいなどと思ったこともない。
「何してんだ? こんなとこで」
「……お頭」
「その呼び方はやめろって、いつも言ってるだろ?」
おれの名前を知らねェわけじゃねェだろが、と隣に腰を下ろす、かの人。
低い声も、豪放磊落な態度も、明るい笑みも…赤く艶めく髪の色も、何もかもマリアを釘付けにしてやまない。
「で、何してたんだ?」
「え?……それは、」
まさしく貴方のことを考えてぼんやりしていたところだとは言えなくて、マリアは膝を立てて座りなおす。
「照れ屋だなァ、マリアは」
がしがしと、大きな手が―――大きな右手が、マリアの頭をなでる。
ああ、そうだ。今更気がついたけれど、シャンクスはいつも左側に座る。
マリアに触れることができるように。
マリアに触れてやれるように。
意外とスキンシップのような、じゃれあいが好きだなんて子どもっぽいところがあるのだ。そういうところが好きだなぁなんて考えながら、膝に頬をあずけてふと左側を見上げると、さらりと海風になびく赤に縁取られた、精悍な横顔が見えた。
ああ、もう言葉もない。
「ねぇ、シャンクス」
「……ん?」
どうした? とこちらを見てくれる彼に、手を伸ばしてみた。
紛れもなく感じる、シャンクスの服の襟、ざらつくヒゲ、さらっとした髪の感触、そして彼のあったかさに、安堵する。
間違いない、私が手を伸ばせば届くところに彼がいるのだと確信できる。
「人肌恋しくなったか?」
「ううん」
「じゃあどうした」
シャンクスも右手を伸ばし、マリアの髪に指を埋める。
「さっきから思ってたんだけど」
「ん?」
「シャンクスがかっこいいなぁって」
一瞬、シャンクスから大人びた艶っぽさが消えて、ぽかんとした表情がまったく予想通りのもので、マリアは思わず吹き出してしまった。
「…お前な、そこで笑うなよ」
くすくす笑っていると、ぐいっと力強く引き寄せられる。
頭のてっぺんに温かな吐息を感じて、マリアがシャンクスを見上げようと身じろぎした途端、かすかに聞こえた短い言葉に思わず固まってしまった。
「い、いま……」
「お前を黙らせるには一番、効く言葉だ」
たしかに、その通りだが。まさかこんなときに言うようなセリフじゃないだろう。
「…そういうのは、もっとロマンチックな雰囲気で言うものでしょ」
「言うから甘くなるんだ」
もう黙れ、などと普段の賑やかさが失せた表情で言われては、最早マリアに否やも何もない。
同じようにマリアも一言呟けば、シャンクスが色気が漂わせながらも嬉しそうに笑うから、それだけでもう舞い上がるくらい幸せだった。
好き、だ。
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