背負った黒刀が一際目立つが、やはり彼も海賊なのだと感慨深いような気分で揺られていると、徐々に天気が収まってきた。
台風の雲の下を抜けたのか、雨がやみ、風も落ち着きはじめる。ミホークが目当てにしていたのは、この穏やかさだったのだろうか。
「…ついたぞ」
「ついたって…たしかに嵐はやんだけど、何も無いわよ?」
見渡す限りの大海原。黒いインクを流したように、光沢のある波がゆっくりと揺らめいているだけだ。
海のそばに住んでいれば、見慣れた景色である。
やはり分からなくてミホークを見上げると、彼がにやっと口角を上げて、上を指差した。
「え?………あ、」
つられて上空を見上げたマリアは、思わず息を呑む。
文字通り、降り注ぐかのような満天の星空だった。群青の空に輝く無数の小さな煌めきたち。普段、星を見ないわけではなかったけれど、今夜の美しさは素晴らしかった。
「すごい……きれい……」
「そうだな」
「ね……あっ流れ星!!」
つう、と夜空が流した涙のように、一筋の光がすべり落ちる。
めったに見られないはずの奇跡に胸がおどる。…と、ひとつ、またひとつと星が流れ落ちていくではないか。
光の雨のように、夜空の果てへ向かっていくいくつもの筋。
「……すごい」
「今年限りらしい」
「そう、なの?」
「ああ。おれたちが生きる時間のかぎりではな」
つぎつぎに落ちては消えてゆく小さな光。
幻想的な光景に、マリアは見入る。
今年限り―――二度とは観られないこの美しさのために、ミホークは嵐を超えてまで連れてきてくれたのだ。
マリアはマントを脱いで、ミホークの肩にそっと頭をあずけた。
「…ねぇ、流れ星に願いをかけると、叶うそうよ」
「そうだな」
「なにか、願った?」
「ああ」
意外な応えにマリアはミホークを見返す。ミホークは、こんな占いのようなものには興味がないだろうと思っていたからだ。
「…何を願ったの?」
「秘密だ」
「えっ、教えてくれてもいいじゃない。気になるわ」
マリアが頭を肩からあげて問うと、ミホークは苦笑した。
「それはお前の願いを聞いてからだな」
「…私が願ったかどうかなんて、分からないでしょ」
「願っただろう?」
いかにも確信という顔で言われては黙るしかない。マリアも願い事をしたのはたしかなのだ。
「……来年、流星群は来なくても、また二人でこうしてられますようにって願ったのよ」
「それは願い事じゃないだろう」
「え? どうして?」
「それは確定事項だ。おれはお前を手放すつもりはないからな」
「…貴方に願ったほうが早かったのかしら」
「願うまでもない。―――だがおれも同じことを考えた」
おもわず、まじまじと鋭い横顔を見つめてしまった。
てっきりもっと自信満々な、独占欲を剥き出しにしたような愛の言葉でもかえってくると、そう思っていた。
「…ミホーク、好き」
「足りぬ」
「………愛してるわ」
「ああ。おれもだ」
体温を分け合うかのようにそっと寄り添うと、大きな手がマリアの頭をなでた。
二人、船底にごろりとして夜空を見上げる。
接吻も、抱擁もないが、二人ともに同じ方向を見つめていられる時間こそが幸福であると知っていた。
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