流星群
その日は、朝から曇っていて風が強かった。
しばらく前から台風の接近が騒がれていたのだから仕方ない。ここは小さい島なので、台風が近づくと皆戸締まりをして外には出なくなる。
マリアも例外ではなく、いつも台風が来たときと同じように、窓の鎧戸をしっかり下ろして、家でぬくぬくしようと決めていた。
一通り、家中の窓を見回って確認を終え、さて温かいコーヒーでも淹れようか、と思ったときだった。
「出掛けるぞ」
「……帰ってきた途端に何なのよ?」
せめて「ただいま」くらい言って入ってくればいいものを。…なんぞと期待したわけではなかったが。
ミホークが唐突なのはいつものことだ。
「何だかわからないけど、出掛けるなんて論外よ。台風が来るって知らないわけじゃないでしょう?」
「分かっている。だからこそだ」
ますますわけが分からない…と首を傾げるマリアに、ミホークは防水のマントを投げてよこした。
「支度は要らん。とにかくそれを着てついてこい」
「…分かったわ」
強引なのも、まぁいつものことか。
ため息をつきつつも、マリアがマントを羽織ると、ミホークは扉のところで待っていてくれる。
…そういうところが好きなのだけれど。
マリアがミホークのあとについて家を出ると、思った通りの曇天だった。
今にも泣き出しそうな空。不安になってミホークを見やるが、彼は淀みなく歩いていくばかりだ。
何か考えあってのことだろうが、さすがに小さな船が停めてある場所まで来ると気になった。
「ねぇ、こんなときに海に出て本当に大丈夫?」
「心配か?」
「…それは、もちろん心配よ」
二人揃って遭難など洒落にならない。だがミホークは鼻で笑っただけだった。
「この程度の荒れでは沈まぬ。いいからついてこい」
「……信じていいのね?」
「信じない積もりか?」
「まさか」
そこまで言うなら、マリアに断る理由ももう無かったので、ミホークの手につかまって船に乗り込む。
そんなマリアを見て、ミホークがまた少し笑った。
「どこに行くの?」
「秘密だ。しっかりつかまっていろよ」
「……うん」
結局、嵐の中を航海するのは変わらないわけで、マリアは体を冷やさないよう、マントに頭までくるまった。
だんだん雨が降りはじめると、最初のほうこそ船に水が溜まらないようにマリアも動き回っていたが、風が強くなると同時に船が揺れはじめると、そうもいかなくなった。
船べりにつかまっているしかないマリアとは裏腹に、帽子を片手で抑えながら悠々と舵をとる背中は、たしかに頼もしかった。
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