呆れる黒猫





「…なに、言ってんだアンタ」

 どう返答して良いか分からず取り敢えず出た言葉がそれだった。何を考えてるんだろう。何で俺をそんなに…。

「お前、人殺したことあるやろ?」
「!!なんで」
「目見たら分かんねん、特に俺みたいな奴にはな」

 そう苦笑いして言うから何故こんな行動をとったのか少しだけ理解できた。この奥大源吉と言う男、普通の人間じゃない。きっとそういう業界の人間だろうと察した。でないとそんな大それた事が出来る訳がない。

「大体俺の事が理解出来てきたみたいやな」
「そういう人間だって事は。」

 少し警戒を元に戻して源吉を睨んでやると小さい溜息を吐いた後一言ずつ話てくれた。

 奥大源吉は裏組織の舎弟頭らしい。デカイ組織とは言っていたが組の名前は言わなかった。
 俺を助けたのもその組織の力になりそうだったからという何とも単純な理由だった。ほんの軽くしか話してはくれなかったが知らないよりマシだと思い何も言わなかった。
 それに人殺しの俺には似合っているかもしれない裏組織への参加。今更その組織のせいで一つ二つ罪が増えても別に構わない。どうせ人殺してしまえば楽な刑なんてな
いから。

「言っとくけどな翼。お前にもう人殺しはさせへんぞ。お前にやってもらうんは、それ以外の仕事や。」
「…人の考え読むな、腹立つ」

 俺の態度の何が面白かったのか源吉はカラカラ笑うとテーブルの横に置いてあった缶ビールを開けた。
 源吉のビールを喉に通す音が鮮明に聞こえる。ゴクリ、ゴクリと源吉がビールを飲む度にそれに比例して警戒が薄まっていく。

「…ぷはっ!!お前も飲んでみぃ。美味いさかい」
「…飲みかけを渡すのかよ」

 ほら、と目の前にビール缶を差し出してくる源吉に悪態を吐きながらも中途半端に入ったソレを受けとった。本当に何が楽しいのか。先程と変わらない源吉の嬉しそうな顔。

「…はぁ。」






-ちゃぽん…






呆れた溜息を吐き、警戒と言う名のビールを一気飲み干してやった。







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