変人と黒猫




 何の疑いも無しに不自由無く生活していくに当たって身分証明は必須だろう。
 だが俺に関する情報は外部に知られると、俺は確実に檻の中だ。世間から俺を知られずに俺を知ってもらう事は不可能だと思っていた。思っていたのだが、どうやらソレを難無く作ってしまう男がいるらしい。
 俺の身分証明を作ると言い出したのは勿論源吉だ。俺が源吉の家に居候をし始めて1週間を過ぎ、家の生活に慣れてきた時だった。
 何故急にそんなことを言い出したのか、それは源吉がいる組織では敵対組織とのトラブルが日常茶飯事で警察沙汰になることが多い。もしトラブルに巻き込まれて捕まったとして、身分もなにも分からない相手を怪しまないヤツが何処にいるだろう。目の前の餌に食いつく猛獣の如く調べ尽くすに違いない。過去に俺がやった罪を知られれば俺の人生はそこで終わり、そうならないようにと思ってのことだった。
 ある日、偽造物の製作者らしき男から源吉に連絡があった。"明日、三条京阪の駅内のカフェに16時待ち合わせ"という連絡だった。前々に源吉が予定していたんだろう。
 男と待ち合わせの日、目的地に向かう最中源吉は俺の警戒心を少しでも薄めるように今から会う男の説明をしてくれた。
 なんでも心底変わったヤツだそうな。源吉以外の裏社会の人間に会うのは初めてで、それを理解し俺を宥める源吉はやはり落ち着く。
 カフェ内に入ると、一番隅の席でヒラヒラとこちらに手を振っている男がいた。源吉は相変わらずだとかなんとか言いながら男の方へと歩いていく。俺も源吉の後を追いながら店内を見た。
 寂れた雰囲気の小さいカフェで、客は俺達以外はいない。まさに知られたくない話をするのには持ってこいの場所だと思った。
 男の座っている席まで行くと、源吉は男と向き合うように席に着いた。俺も隣に腰を落とす。男は冷めた目で俺を見ると何が面白かったのかいきなり笑い出した。

「にっひゃははは!!ほんとぉに黒猫だよコイツぅ!!かぁんわいぃ〜!!」
「…?!」

 俺が理解できないと言わんばかりに眉を歪めるとそれに対しても男は俺を指差して笑う。
 段々と腹が立っていき無言で隣に座る源吉を右肘で突いた。源吉は困った顔をして「こいつはこれが素なんや」と言って溜息を吐いた。俺は尚も笑い続ける男を睨むと。

「にひゃはは…あ〜ごめんねぇ?あんまりにもそのままだったからさぁあ。怒ったぁ?」

 イライラしている俺に男は「うーん」と考える素振りを見せると、自分の鞄からあるものを取り出しソレを俺の前へ突き出した。そして一言。




「チュパぁ、食べるぅ?」





 源吉、今すぐコイツを殴ってくれ。俺は心の中で叫んだ。








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