餌付けされる黒猫




あの後…、俺はどうなった?

 目を覚ますと蛍光灯一つの薄暗い白い天井が見えた。もしかして刑務所?知らないおっさんの財布掻っ攫ったから。
 ああ、それなら終いだ。窃盗罪と殺人。出られる訳がない。出てもなにもない。
 起き上がり回りを見渡すと最初の考えは吹き飛んだ。
 少々散らかってはいるが生活感のある部屋。台の上にはカップラーメンの空の容器と灰皿。テレビ前にはアダルトのDVDが散らばってる。家主は男か。


男?


俺の上に馬乗りなんざ
一億年早ぇんだよ。



 意識を失う前に聞いた、低い低い声。

まさかこの家。

 瞬間、人の気配が玄関口から感じ勢いよくベッドから立ち上がった。ドアノブを回す音が異様に大きく感じる。

「…!!おぅ、なんや。まだやんのか?ちゅうかおはようさん。」
「………」

 あの男だった。スーパーの袋を両手に持って。おはようって。緊張感ない奴だな。自分を殺そうとした奴の前なんだぞ少しぐらい…

「警戒してもいいんちゃうか?」
「………」
「って思っとったやろ?ははっ…当たりやな」

 男は部屋に上がり、スーパーの袋を台の横に置いた。そして小さな冷蔵庫へと足を運ぶ。

「警戒せんでも平気や。あん時みてぇに押さえ込んでやるさかい。」

 その一言に俺は自分の手首に目をやった。ベルトで縛られた痣は赤々と残っていた。男は暫く冷蔵庫を物色しちらりと俺を見た。

「…それに」

 冷蔵庫を勢い良く閉め立ち上がった男の両手にはビールが握られていた。その二つをカンっと合わせると挑発的な視線で、

「お前、弱いから。嫌でも俺が勝つわ。」
「…てめぇ」

 俺はニヤけ顔の男の前で初めて声を出し、怒りを露にした。一触即発。そんな雰囲気だった筈なのに。

「……っ!!」
「…………」

 不意に俺の腹が空腹で飯を求める音が響く。無意識に腹を腕で隠すとさらに追い撃ちをかけるように現実を叩き付けられた。

「…ぃ!?」

 直ぐさまベッドの毛布を自分の下半身に巻き付ける。

「…腹減ってんのは理解出来るけど、まさかお前今まで真っ裸って事に気付かへんかったんか」

今まで俺は裸で!?

「ってめ…殺す!!」
「ぶははははは!!まぁ、あれや。」

 男は一通り爆笑すると笑いを堪えながらビールを台に置きスーパーの袋から弁当を取り出し俺に差し出した。

「腹が減ってはなんとやらや。食えや野良猫。」

初めて、男の笑った顔が暖かいと感じた瞬間だった。







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