黒猫の悩み
楽屋で俺は三水とのシーンを思い返してみた。
―回想開始―
"恋と咳は隠せない"にて
「僕は三水酉、よろしくね」
自らの名前を名乗った後、人当たりの良い笑顔で俺に右手を差し出してきた。俺がその手に触れようとした瞬間、酉の手は引っ込められ虚しくも俺の手だけが空を切った。
何故に手を引っ込めるんだと自分の手から相手に視線を移すと、無があった。
先程まで笑顔が張り付いた顔はなく、かわりにあったのは無表情。
"恋する黒猫"にて
次に入ってきたのはCHU-RINのウザい言葉。相手に分かるよう眉を歪め、溜め息を吐いた瞬間左の爪先に激痛が走る。足元を見ると三水の右踵が俺の爪先を力強く踏みつけていた。
「調子に乗るなよ新入り」般若顔)
"怯える黒猫"にて
「―った…!!」
脳天に衝撃と共に鈍い痛みが走り、上体を起こした。
じんじんと痛む頭部を擦り、重い瞼を開閉させ辺りを見回すと、ボトルを持った三水と目が合う。
"怯える黒猫"にて
「……何勝手に入って来てるんだ」
視線はパソコンに向けたまま俺に言い放つ三水。
「…や。………好奇心?」
素直にCHU-RINは何処だとは言えず、意に反した言葉が出てきてしまった。俺の言葉が言い終わる前にキーボードを打つ音が止み、代わりに射抜くような怒気を含んだ視線が此方にとんできた。
"怯える黒猫"にて
なんとも怠けた会だ。そう思い溜め息を吐くと隣の人物(三水)から足を蹴られた。
"貧弱な黒猫"にて
三水の顔を見ると満面の営業スマイルで「その鬱陶しい前髪をどうにかしろと言ったよな?」と暗に語っていた。
―回想終了―
源吉、俺はいつか三水に殺されるかもしれない。
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