不安になる黒猫
あの後源吉に変人を静かにさせてもらい男の紹介を聞いた。変人の名はCHU-RINと言うらしい。何ともふざけた名前だ。裏社会の人間だと言うから気を張って来たのに。変わったやつと聞いていたがこんなにもふざけてるとは聞いてないぞ、源吉。
「…翼、そないに睨むなや。俺の説明不足やった。かんにん。」
「にひひひ…」
本題の身分証明証の話になった。
「…まぁーめんどーだけど簡単なやり方だからさぁ、しっかり頭に叩き込んでねぇ。こればっかりは俺じゃあできないから。」
その言葉に源吉と俺は驚いた。偽造の身分証明を造れると聞いたからわざわざ来たのに、言い出した本人は造れないときたからだ。
「……あんたじゃできないってどういうことだ」
「俺達で造れゆぅんか?」
俺達の問いにCHU-RINは
「そゆことぉ。はいコレ。」
テーブルを10代後半の男の写真が数枚と地図、また個人情報とみられる文章がぎっしり書き詰められたB5の用紙が4枚、印鑑二つが埋めた。
源吉は写真を一枚取り、眺めて数秒後、片眉を上げ問うた。
「なんやこれ。身分証明証を造るんにこないなモン必要なんか?
」
「必要だからあるんでしょお?ダァイジョオブゥー。心配しなくても良いよ。とりあえずさぁ、説明ぐらい聞いてくんなぁい?」
源吉は手に持っていた写真をテーブルに戻した。ソレを次に俺が手に取り眺める。
「住民票、国民健康保険証、印鑑登録証明書、印鑑と運転免許証、その他いろいろ。今言ったの全部作ってもらうからね。あぁそぉだ運転免許証は普通に受けてもらうから。ちゃあんと虎の巻買ってきてあげるからさ」
「運転免許証…」
CHU-RINの話した単語の一つが不安になり、俺はその単語を木霊返しする。
そんな俺を見たCHU-RINはため息を一つ吐くと鞄からまたもやチュパチャプスを取り出し包装紙を剥ぎ取る。
「お子ちゃまは心配しなくて良〜の!!はい、お兄ちゃんが飴ちゃんあげよっあ〜んしなサイ!!」
「は?!…お子ちゃ…っんぐ!!」
なんなんだコイツは!!
CHU-RINはにひひと笑うと、俺の手に持っていた写真を奪う。
そしてソレを自らの顔の横でぴらぴらとわざと注目させるように揺らした。
「偽造っつっても、コイツの身分を奪うだけだから。名前、住所、電話番号も全て確認済み。名前は山田孝行、19歳。現在一人暮らしの無職、結構良いマンションだから実家は金持ちだねぇ。まぁ、所謂ニート野郎ってこと。」
写真をテーブルに叩き付けたことにより大きな音がなる。
「さぁて、本題の説明。イっちゃおっか?」
ごくりと、飴のせいで甘くなった唾液を飲み下す音がやたらと大きく聞こえた。
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