ゴテマリ






生まれて初めて、友達ができました。






=== ゴテマリ ===






「本当に良いの?」

「うん!わたしこのへや、きにいったの!」


あの日以来、私は病室を変えるのをやめた

もともと暇つぶしの一つだったし、この部屋からだと隣の遊び場がよく見えるから…


「それじゃぁ、院長にも伝えておきますね」

「おねがいします」


わたしの担当をしている看護師さんは、その病棟によって代わる代わるだった

でも、もう移動しないとなると、この病棟の看護師さんが誰か専属で付くのかもしれない

そうなるとやっぱり仕事が増えるから、迷惑かけてしまうかも

なんて思ったりもしたけど、わたしの滅多にないわがままは、すぐにお父さんも承諾してくれた

わたしの担当の看護師さんはとっても明るくてパワルフな人で

わたしと同じ年の息子がいるんだと話してくれた


「きょうはくるかなー…」


毎日、午後の3時すぎから窓際に椅子を置いて、隣の運動公園を覗き見る
あれ以来、何度かテツヤくんを見つけて手を振ってみて

2,3回目くらいでやっと気づいてくれた

2階の部屋だから、それなりに距離は近い

テツヤくんはここのところ、バスケのゴール近くでシュートの練習をしていた

バスケ好きなのかな?

でも、シュートが入ってるとこ、みたことないんだけど…


「あ…!」


スパンッ

そんなこと思った瞬間、綺麗な放物線を描いてボールがゴールに吸い込まれた

いつも見てて、初めてだ


「すごーい!」


思わず窓から身を乗り出して、テツヤくんをみる

テツヤくんも、ちょっと驚いた顔してて、でもなんか嬉しそうで、

こっちをみて手を振ってくれた

あ、行きたい

そっちに、行きたい

この間は勝手に抜け出しちゃったけど…

ちゃんと許可取れば大丈夫かな?

そう思ってわたしは、迷わずナースコールを押してみた

すぐに慌てたような声で看護師さんが応答してくれて

なんか少しだけ申し訳なったけど、


「あの、ちょっとだけ…」


わたしが言うと、ホッとしたような声で看護師さんがOKをくれた

ただ、マスクはきちんとつけていくこと、と念を押される

どこで悪い菌をもらってくるかわからないからだと


「ありがとうございます!」


急いでカーディガンを羽織って、車椅子に乗る

わたしが下に着くまでに、テツヤくんが帰ってたりしませんように!







ゴゥン、と少し古くなったエレベーターが音を立てて1階についた

優しそうなおばちゃんが、ドアが閉じないように開けておいてくれて、お礼を言ってエレベーターを降りた

入口の受付前を通り過ぎようとすると、見覚えのある髪の色


「テツヤくん!」

「あ、」


ナースステーションの受付の前でポツンと立っていたのは、会いに行こうと思ってた人

なんでだろう、私の声に周りの人が少し驚いた顔をしている気がする

大きい声出しちゃったかな?


「ほんとうに、よくみつけてくれますね」

「うん?」

「いえ、なんでもないです」


ふわりと、笑うテツヤくん

なんかこっちまで嬉しくなって、笑顔になる


「なんでここに?」

「あの、あなたがてをふってくれたので、その、」

「!わたしに、あいにきてくれたの?」

「えと、そうなりますね」


嬉しくて、顔が緩んだのがわかって

ほっぺたが熱くなったのがわかって

きっと私いま、真っ赤な顔してるかも


「うれしい!ありがとう!」

「!」


思わず勢いでそのままテツヤくんに抱きついちゃった

だって、私に会いに来てくれる人なんていないから

初めてだから、とっても、とっても嬉しい!


「あ、わたしのへや、くる?ここだと、ほかのひとのめいわくになるかも!」

「え、あの…」

「このうえだから、ダメ?」

「…いえ、じゃぁ、おじゃまします」


少し困ったような顔をしたあと、すぐに笑顔で返してくれた

なんだろう、本当に嬉しい

友達に、なれたのかな?

テツヤくんの手を引いて、さっき降りたばかりのエレベーターに乗り込んだ








はじめて、ボールがネットの中をすり抜けて

少し驚いて、

そしたら、かすかに声が聞こえた気がして
振り返ると、あの子がいて

思わず手を振った

そうしたら急に中に戻って行ってしまって

もしかしたら、出会った時のように、降りてこようとしているんじゃないかって、

入院してる人が、そんなに抜け出して良いのだろうか、なんて考えて

気がついたら、病院の自動ドアをくぐっていた

でも、受付になんて言えばいいんだろう

あの子の名前は知っているけど、知らない人が入ってもいいのだろうか

その前に、受付の人に気がついてもらえるだろうか

こんなことをしているうちに、あの子が僕に気づかずに外へ行ってしまったら、


「テツヤくん!」


けれど、そんな考えを吹き飛ばすように

あの子が、真っ直ぐに僕を見ていて

周りの人は、あの子の声で、僕がいることに気づいたみたいで、驚いた顔をしていた

話しているうちに、この子の部屋に行くことになって

手を引かれて、エレベーターに乗り込んだ


「さっきの!すごかったね!」

「ありがとうございます、でも、まぐれだとおもいます」

「まぐれじゃないよ!テツヤくんいつもがんばってれんしゅうしてるもん」


ゴゥン、と音を立ててエレベーターが2階についた

いつも、ということは

毎日、この子は僕のことを見てくれているのだろうか

なんだか、恥ずかしいような…


「ここがわたしのへやだよー、なにもないけど、すわってすわって!」

「はい、おじゃまします」


この子は、病気なんだろう

そうでなければこんなところにいないだろう

車椅子に乗っていたけど、歩けないわけではないみたいだし


「いつもここからみてるんだー」


そう言われて見た窓の外

僕がいつも遊んでいる公園が一望できる

子供がたくさん遊んでいる中、この子は僕を見つけてくれている

どうして、


「よく、ぼくのことをみつけられますね?」

「ん?だってめだつよ?」

「…そんなこといわれたのははじめてです、ぼくはみんなにわすれられるほどかげがうすいので」

「えー?それはきっとみんながみるめがないんだよー!」

「そう、ですか」

「ぜったいそう!…っていっても、わたしともだちいないから、よくわかんないけど」


アハハ、と頬をかきながら困ったような顔をした

ほとんど生まれた時から病院が家状態なのだと、話してくれた

僕は少し驚いて、おもわず


「がっこうには、いったことないんですか?」


浅はかな問だったと思う

そんなの、聞かなくてもわかるのに

ハッとして、慌てて訂正しようと口を開いたけれど、

それはこの子の言葉で遮られた


「いきたい、けど…ほっさがおきたらたいへんだからって、おとうさんがね」


くしゃりと、うつむき気味に涙をこらえているような、無理をしている笑顔

やってしまった、と

嫌われてしまったと思った

一度口にした言葉は、もう戻っては来ないのだ


「だから、テツヤくんにあえてほんとにうれしいの!」


僕がそんなことを思っているなんて露知らず

この子はそんなことを言う

嫌われたと思ったのに

嬉しい、なんて

はじめて…


「ぼ、くも…ぼくも、雪姫にあえて、うれしい…です」


思わず口からでたその言葉

心の底から、そう思った

この子に出会えて、本当に…


「じゃ、じゃぁ!ともだちに……なって、くれる…?」


恐る恐る、首をかしげながらそんなことを聞いてきて

なんだか笑ってしまいそうになった


「もちろんです、というか、ぼくたちもうともだちです」


パァっと表情が輝いたような錯覚

それほど、嬉しそうな笑顔で両手を差し出してくれて

反射的にその手を掴んだ


「よろしくね!テツヤくん!」

「はい、こちらこそ…よろしくおねがいします」


小学3年生の春から夏に変わろうとしていたころ

僕はこうして、雪姫と出逢ったんだ









...to be?






▽コデマリ 
バラ科、落葉低木 4〜6月
花の色:白 
花言葉:伸びゆく姿、努力、優雅、品位、友情





あとがき

出会いの話、一応完結?
この出会いを起点に、短編をちょろちょろ書いていく予定です。
次は中学に飛ぶか
そのあいだにあった事件のことを書くか
ちょっと悩み中です

ここまでお付き合いくださりましてありがとうございました!


2012.9.17.
倉紗仁望
 


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