日々草







わたしは、守られてばかりで、自分では何もできなくて

きっとこのまま、なにもできないまま、人生というものは過ぎていくのだと思ってた

幼いながらに、自分の人生を諦めていた

君に出逢わなければ…




=== 日々草 ===





青い空が覗ける、四角く切り取られた風景

清潔な印象を与える白を基調とした部屋

白いカーテン、白い壁、白いベッド

その狭く閉ざされた空間が、わたしが自由に動けるすべてだった


「雪姫ちゃん、検温の時間ですよー」


毎日、同じ時間に代わる代わるやってくる看護師

朝昼晩の食事と、検温、問診

過保護なわたしの父親による過度ともいる入院

母親が同じ病気だったらしい、わたしがまだ5つのときに亡くなった

まだわたしが幼かったために、父は再婚した

継母はわたしのことを厄介者と思っているのか、ずっと入院させておくのが良いのでは?と父に勧めた張本人らしい

おかげで家に帰るということをしたことがなく、わたしの家は父が経営しているこの病院になっている

月に1回部屋を変えてくれるのは、なによりの救いかな

毎日おなじ風景をみて、同じ年の子がしている勉強を家庭教師を使って勉強する

これがそのころまでのわたしの日常

自分の身体のことは、小さい頃からよく聞かされていた

このままずっと、こうしてい生きて、ちょっとした発作で苦しんで、あっけなく死んでしまうんだろうって

まだ9歳の子供が思うようなことではなかったのに


「いいなぁ…」


いまいる病棟は、隣接している運動公園がよく見える

それなりの広さがあって、ストリート用のテニスコートや、バスケのコートもあった

わたしのいるところから見えるのは、子供用のバスケゴールが1つと、広場を横切った逆側に子供用のサッカーゴールが設置された広場

同じ年くらいの子供たちが毎日学校帰りに遊んでいて、正直うらやましいと思う


「あそべなくても…」


―――あそこに行くことくらいは、平気ではないだろうか


「なん、て…」


数人の、同い年くらいの子供が集まって、ジャンケンをしている

ひとりが屈み込んで、目隠しをした

途端、子供たちが散っていく


「かくれんぼ、」


やったことはないけど、知識としては知ってる

鬼役の人がひとり、隠れた人を探しにいく

ずっと入院していて、同い年の友達なんていないわたしにとってそれは、なにが楽しいのかわからない

でも、


「…」


うらやましい、とは、思うよ


ひとり、ふたり

だんだんと見つかって、残るは最後のひとり

この病室からだと丸見えの場所に、ひとり


「あ、れ…?」


子供たちが、手を振って帰って行く

まだひとり、いるのに

まだ、隠れてるのに


「……」


そのとき、わたしは

行かなきゃいけないような、そんな衝動にかられて


―――はやく、はやく…



見つけてあげなきゃ



そのまま、車椅子に飛び乗って、

病室から、病院から抜け出した









「………」


―――今日も、


「みつけてもらえなかった」


忘れられた、存在

記憶に残らない、存在を覚えてもらえない

見つけて、もらえない


「……」


慣れてしまった、この感情

きっと、さみしいというんだろう

友達に、覚えていてもらえないことが…


「そろそろ、かえりましょうか」


ほとんど独り言のようにつぶやいて、隠れていた茂みから立ち上がろうと手を地面につく

ここからの帰り道は、夕焼けがとても綺麗で、ぼくの数少ない楽しみで、


「いたー!」

「!?」


女の子の声に驚いて、身体をびくつかせる

聞いたことのない声

その言葉に、少なからず期待してしまう自分が虚しいとも思った


「みつけた!みんな、かえってっちゃったのに、まだかくれてるの?」

「―――、ぇ?」

「かくれんぼ、してたんでしょ?」

「え、あの…」


車椅子に乗った、見たことのない女の子

黒く長い髪と正反対の、真っ白な肌

パジャマ姿が、背後にそびえる病院と重なって違和感をなくしていた


「きみは、」

『 雪姫ちゃーん? 雪姫ちゃーんっ?』

「え…」


遠くの方から、誰かを探すような声が聞こえてきた

目の前の女の子が、しまった、っていう顔してる

雪姫ちゃん、とはこの子の名前らしい


「あ、かんごしさんだ...ごめんね、へやからぬけだしてきたから、もどるね」

「あの」

「ねぇ、なまえは?」

「え、」


突然のことに驚きすぎてついていけない

名前なんて、きっと聞いても覚えてもらえないのに...

いつも、そうだから


「わたしは 雪姫!白藤雪姫!」

「…黒子、テツヤ、です」

「テツヤくん!うん、またね!」

「あの…」


僕が何かを言う前に、なれた様子で車椅子の背中を向けて行ってしまった

また、と

そんなこと、言われたのは初めてで

いつも忘れられてしまってた僕にとっては

この数分のあいだに、ありえないことがたくさん起きて

なんだろう

また、会いたいなんて

思ってしまったんだ







>>to be...?






▽日々草
キョウチクトウ科、一年草 7月〜9月
花の色:淡紅、紅紫、桃、白
花言葉:若い友情、生涯の友情、楽しい追憶、優しい





あとがき
お久しぶりな方もそうでない方も、
お久しぶりです、じんぼうです。
約2年ぶりに筆をとってみました。
文章が硬い...すこぶる硬い!
まだまだこれじゃぁなんのこっちゃな話ですが
この話の続きがあと1つあったら
短編でちょこちょこ書いていく予定です。
複雑な設定を組んでしまったのでしばらくお付き合いください。
なお、次がいつ更新されるのかは未定です(爆



2012.8.20.
倉紗仁望 拝



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