1+1で、やっと1



暁の任務では外泊はよくあることで、いつもシングルを二つとっていた。
今回は四人なのでシングルを四つとろうとしたのだが、宿の亭主からそれはできないと断られた。
シングルを四つとるならツインを二つにしてくれ、うちはそんなに広い宿じゃないんだ、と。
他に当てがなかったのでツインを二つとって、鬼鮫とイタチの部屋に一人ずつ子供を入れればいいと思ったのだが…

「困りましたねぇ…」

部屋の入口で、二人は文字通り困っていた。
中に居るのは、二人の少女。
イタチが部屋の鍵を開けて、荷物を運び込んだのはいい。
双子もそれに続いたのも良しとしよう。
問題が起きたのは、鬼鮫が片方を連れて来るためにイタチの行った時だ。

結論から言うと、双子が離れない。

鬼鮫が「行きますよ」と声をかけても、聞こえないフリ。
イタチが説得しようとしゃがんでも背を向ける。
これだけは譲れないとばかりに、双子は手を繋いで部屋の隅に正座していた。
こうなると必然的にイタチと鬼鮫が相部屋になってしまうのだが、それだけは勘弁願いたい。
何とか打開策を編み出そうとしていると、突然双子が立ち上がって部屋を出た。
諦めてくれたのかと思ったが、二人同時に出たのでそれはないと気付く。
何をするのかと思って着いていくと、鬼鮫の泊まる部屋から布団を一式運び出そうとしていた。
双子の機転のおかげで最悪の事態は避けられたが、普通そこまでするかと呆れ、半ば感心した。
二人が布団を敷き終わったのを見届け、鬼鮫が部屋へ戻る。

「では、おやすみなさい」

「ああ」

軽い挨拶を交わし、イタチも部屋に入る。
襖の奥に、布団が三つ川の字で並んでいる。
さすがに狭い。
狭いのだが、満足そうに布団の上に座る二人を見て、これもアリだと思った。
三人分のお茶を入れて二人を呼ぶと、小走りでイタチの向かい側に座った。
熱々のお茶を冷ましている少女と、お菓子の入った皿から饅頭を取って包みを開けている少女を見つめる。
まるで、妹のようだ。
うちは皆で暮らしていた頃を思い出す。
あの頃は、こんな風に食卓が温かかった。

「そういえば、名前をまだ聞いていなかったな」

イタチの言葉に、二人の動きが止まる。
黒い着物の少女がイタチの手を取り、文字を書いた。

《か く》

名前を書きたいらしい。
部屋に備えられていた筆と墨汁と紙を渡すと、慣れない手つきで字を書き始めた。

《想謳》

半紙の半分にそう書き、もう半分には紺の着物の少女が名前を書いた。

《想奈》

それをイタチに見せたあと、想謳の文字の上に《姉》と付け足す。
それを見た想奈も、自分の名前の上に《妹》と書いた。
想謳がイタチの顔を指差し、首を傾げて名前を聞くジェスチャーをする。

「うちはイタチだ」

そう名乗れば、双子が握手をするために手を出した。
意外な行動に内心驚きつつ、一つ一つの小さなてを握る。

「………」

双子は、イタチの手の優しい体温を感じて思う。

始めてかもしれない。
姉妹以外の、温かい人に触れたことは。
自分の周りには無かったその温もり。
これが、嬉しいとか幸せって言うんだろうか。

今まで表情を変えなかった双子が、微かに笑ったような気がした。











3月27日、執筆。



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