強張るなにか

[heroine side]

そのあとマクスバードへ向かいガイアス達と合流。潜伏したアルクノアを騒ぎにならない程度に検挙している話を聞いてミラが嫌そうに悪態をついた。

「こっそり消して、なかったことにする──あなたたちの得意技ね」

「ミラ」

「なによ、本当のことじゃない」

ミラは恨めしそうに呟いた。こっそり消して、なかったことにする。とはミラの世界での話だろうか。私は話しか聞いたことがない。私が知らない世界の話。私が知っているのは自分の世界と正史世界[ここ]とこの世界にやってきてからルドガーの手伝いで入ることになった少しの世界。それだけ。
私の世界では、こっそりなんてことはなかった。まあ、それは私たちが時歪の因子に遭遇する前に出会ったからなのだろうけど。

ミラのあからさまな態度にガイアスは眉をひそめて疑問を口にするが、事が事なだけと曖昧な返事を返す。それに対して彼女は黙ってなかった。

「確かに『ちょっと』よね。世界を消すのに比べれば、私を消すことなんて」

「……ミラ、」

なにもしてあげられない自分が悔しかった。ミラを殺す?この世界のマクスウェルを助け出すために?私の知るミラは二人だけ。だから彼女を殺めるくらいならカナンの地なんて行かなくったっていいと思う。エルや正史世界のミラには悪いと思うけれどこれが私の本心だ。

「マクスウェルを消す……?」

どういうことだとガイアスは眉をひそめる。が、調印式の話も重要なのだ。彼の話が始まり、耳を傾ける。その途中でルルの鳴き声に皆して振り向いた。マルコだ。ルルの尻尾を踏みつけた当人は軽く謝ってそのまま去ろうとする。それを彼が止めないはずがなかった。

「マルコ!」

「げっ……アルヴィン!?」

マルコは彼の顔を見た途端嫌そうな顔をしてそそくさと逃げていく。きっとアルクノアのこと何か知っているのだろう、ガイアスとは別れ、アルヴィンを筆頭に彼を追いかけた。


「あの人!あんなとこに!」

「ちょっと!一人で勝手にいかない!」

エルがコンテナ近くにいるマルコをみつけ走っていく。ミラが慌ててその姿を追い、皆も続く。次第にじりじりと追いつめられた彼は引きつった顔を見せてからうなだれた。もう逃げる気配は見せない。

「マルコ、アルクノアから足洗えって言ったよな?」

「ご、ごめん!」

まだ関わってるんだなという質問にごめんと返す。それは肯定を表すようで。エルやミラはそんな彼の姿をみて怪訝そうな顔をする。素直に弱そうと、明らかにテロリスト向きではないでしょと。
呆れた顔でアルヴィンもが精々捨て駒に使われるのがオチだろとぼやき、それに対して本人が首を縦に振った。

「俺、本隊の通信を聞いちまったんだ。街に潜らされた俺らは囮で、本命は、あっちなんだって」

マルコはそう言って海を指差す。その先には調印式のためにマルシア首相がのっている旅客船があり、続いて船員にアルクノアが紛れていることや首相の首を狙っていることなどの内部事情を漏らしてくれる。今マルシア首相の身に何かあったらリーゼ・マクシアとの間に完全に亀裂が入る……つまり、和平交渉から戦争へと勃発する可能性も否定できない。
エレンピオス人の戦い方では世界中のマナを枯渇させるのを促進させてしまうだろうし、ここでなんとか食い止めなくては源霊匣を完成させる以前の問題になってしまう。

「……させない。ミラがくれた時間を無駄になんて!」

ジュードは決意を固めた顔をしていた。やっぱりそうだ。彼がそうと決めたなら私も大人しくついて行こう。だって私の今の居場所は此処だから。
ジュードはGHSでこの作戦をガイアスに伝えると、船に乗り込むと言いだす。私も装備を確認してグローブをはめた。

時に俺も行くとルドガーが言う。ジュードが危険だよと念をおしたが彼の言葉は揺らがない。クスリと緊張が解けたようジュードはお人好しだよねって笑う。同じようにうんうんと頷くエルに私も同意した。
不意にミラと目が合い、その思い悩んだ顔に「一緒に行こう」と思いで伝えた。目線を下げてもごもごと何かを呟いた彼女の声は聞こえない。



「私も行くわ」



それでも心配
(「私も行くわ」そう言った彼女の顔は強ばっていて)(まるで「 」を確信しているようで)

2014.7/12


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