潜入開始

[heroine side]

船内では既にテロ攻撃が開始されているらしい。警備のアルクノア兵が二人、アルヴィンはマルコに目で合図を出し、彼もそれに応えるように行動にでた。

「侵入班のマルコです。緊急情報を伝えに──」

「動くな。独断行動は処断対象だ」

処断対象という言葉に動揺する彼はなんとか穏便に済まないかと相手を宥めるような言葉でやりきろうとしたが、どうも上手くいくような相手ではなかった。
物陰から不意をついて中へと突入しようとしていたが、このままではマルコ自身が危険な目にあわされてしまうかもしれない。

「奴ら、徹底してやがる……」

「それなら作戦変更だ!」

ルドガーは双剣を強く握り、彼らの間へと飛び出ていく。一歩遅れて私もその場から動いた。ルドガーと共に敵の攻撃を防ぎ、マルコを庇うように立つ。もう一人のアルクノア兵にはミラが立ちはだかった。が、そいつに凪払われミラはバランスを崩してその場に倒れてしまう。
その隙を逃がさずアルクノア兵は銃口を向けまるが、それは発砲する前にルドガーの手によって地に伏せていた。

「ミラ、怪我ない!?」

「……ええ、大丈夫よ」

手を差し出したけれど彼女は私の手をとらないで自分の力で立ち上がる。行き場のない自分の右手と彼女を交互に見て静かに下ろした。敵の隙を狙っていたらしいアルヴィンとジュードはアルクノア兵が戦闘不能だということを確認して物陰から姿を表した。

「油断すんなって、死んじまうぜ?」

アルヴィンの言葉に一瞬ミラの顔が陰った。すっと彼から視線を外す。そしてこう言った。「その方が、よかったんじゃないの?」と。その言葉をその意味を理解するよりも先に私の手は動いていた。パンッと冷たい音が子の場一帯に広がって。はたかれた本人は驚いて声もでないのか赤くなった頬を押さえた。

「良いわけないでしょ!」

だからといって今この現時点で彼女を確信を持って救える方法というのは無いのも確かで。その言葉の続きは叩いたことによる謝罪。ごめんと一言。彼女は何も言わなかった。
場を取り直すようにジュードが口を開く。

「首相たちは?」

「あ、ああ。中央ホールに集められているはずだよ」

その言葉を聞いてミラは扉の向こうへ歩いていく。……、私は彼女の後ろ姿すら見ることができなかった。ただただ変わらない甲板の床を見続けるだけ。右手がぴりぴりと痛んでいる。同じくらいに胸のあたりも違和感。この気持ち、なんというのだっただろうか。

「助かったぜ、マルコ」

「悪いことやめた方がいいよ。マルコ、いい人っぽいし」

エルの言葉にマルコは肯定の言葉を漏らしながら苦笑していた。少女は彼女の背中を追いかけて扉の向こうへと消える。
ジュードが肩をポンとたたいたのと同時におさえていた涙がこぼれ落ちた。

「あの時、「じゃあどうすれば私は生きていられるの」って言われたら……、正直困った私がいて…それが、悔しくて…っ」

打開策を見つけることができない。だってミラとミラは一緒に居られないのだから。エルと分史エルのように鉢合わせたら降った雪が溶けるように彼女が消えてしまう。でも、エルの願いを叶えるためにもカナンの道標を集めなければいけなくて。その障害となっているミラは此処に戻って来られなくて立ち往生。
誰かが犠牲になるしかないのか。
ミラの言うとおりミラを犠牲にしてミラを救うしか方法はないのか。やっぱり、エルにカナンの地のことを忘れてもらってこのまま何も知らないままでいたらどうだろうか。

ちらりとジュードの顔をみて、彼も悔しそうに顔を歪めていた。
もしかしたら気持ちが知らずのうちに伝わっていたのかもしれない。わたしにとってこの世界のミラは全く関係性のない人だけど彼やアルヴィンたちはそうではないのだ。
他人というカテゴリーに入らない彼らの気持ちはいったいどうなっているのだろう。ミラを消すことを厭わないのだろうか。
私にとってのミラは今のミラだけで。それはきっとルドガーやエルもそうなのだろうけど。

その時点で私たちと彼らの考えの差違が生じていたのだと思う。
黙り込む私達二人に痺れをきらしたのか、ルドガーが一声かけた。


「………そろそろ俺たちも行こう。今のミラをひとりにしたくない」



胸に違和感を抱えて
(私達は何の気なしに彼女たちを追うのだった)

2014.11/4


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