障害物発覚

[heroine side]

クラン社の中なんて滅多に入ったことなんてない。一度だけ自分の世界のときに訪れたことはあったけど社長室なんてそんな恐ろしい場所に訪れたことはなくてつい肩に力が入ってしまう。そもそも私なんかがこんなところに来てもいいのか。分史世界に関わったことは確かに歩けれどヴェルという人の声を聞いたことしかない私にとって中々に突き進んでいくのが不安になる。
その点、目の前を歩くガイアスやミュゼが羨ましい。目的のためならきっとどんな危険な場所だろうと突き進むのだろう。やっぱり適わないな。

社長室に入るとビズリーさんが待ち構えていた。顔くらい私でも知っている。ニュースとかでテレビ越しのご対面なら何度かしているもの。傍にいる女の人が多分ヴェルさんで間違いないだろう。スラッとした体型と長髪が特徴の男性が居る。決して愛想がいいとは言えない彼は一体誰だろう。

「ビズリーさん、なにか起こったんですね?」

「しかも、マクスウェル絡みで」

ビズリーさんは話し始める前に皆の顔を一瞥する。そして視線はガイアスでとまった。
二人は各々自己紹介をして握手をかわす。こういうのって私がスポンサーの方と会談をするときのと何ら変わらないんじゃないかって思っていたけれど全然違う。この場の雰囲気、大人の雰囲気に圧倒されそうだ。
ビズリーは和平条約の事を出してくる。
調印直前のその話に皆の顔が強ばっていた。いや、ミュゼは別に気にしていないようで。不用心では?との言葉に平気よ、と言い放つ。

「……こちらは?」

「連れだ」

「ただの精霊です。お気になさらずに」

……ただの精霊って。
隣のジュードも同じような顔。あはは、やっぱり思うところは一緒なのね。
と、余談はここまで。本題は道標の話。
最後の道標が見つかったが、時空の狭間に障害が存在して進入点を塞いでいるらしいのだ。

「進入を試したけど、見事に跳ね返された。四大精霊の力でな」

四大…その言葉に出てくる人なんて一人しかいない。ミラ=マクスウェル。正史世界の彼女。
分史世界へ入るには時空の狭間にいるミラが障害となっている。
皆はざわざわと騒ぎだす。聞き覚えのない単語がでてきたり私には分からないことだらけだがなんとなくミラがそこにいる理由、障害になっている理由が分かる。分かるけど…、

前に立つミラの顔は青い。強ばるそれは私のような緊張やその類ではない。
だって私たちは見てしまったもの。ウプサーラ湖でのあの一件を。

どちらも救うことはできないの?
自問自答を繰り返す。分かっているの。
前にジュードにも言った言葉を思い出す。
大切な人を守るためには何かを捨てなくちゃならない。
捨てたくない大事な人であっても。
でも。もしミラがここで生きたいと言ったら?
本人の主張は?
……こういうときどうすればいいの?
やらなきゃいけないことと分かっていてもそれをやりきるだけの行動力なんて私には持ち合わせていなかった。

「とにかく、ミラ=マクスウェルをなんとかしなければ、最後の道標は手に入らない。リーゼ・マクシアの皆さんにも、ご協力を願いたいのです」

「わかった。こちらも方法を探してみよう」

ガイアスがそう答えた時だ。ミラが口を開く。

「方法なら、わかってるわ」

辛そうに言い捨てると、彼女はいきなり走りだした。社長室を出ていく。
エルが追うようについていき、私は彼女の背中を扉の閉まる直前までみることしかできなかった。一歩も足が動かなかった。



「……ファルス?」



背負わされた宿命
(こうなるときがくることは予想できていたはずだけど)

2014.6/5


- 61 -

[*前] | [次#]

- back -

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -