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=第一の寵姫(2)=



王の寝所へ向かおうと、迎えの使者とともに部屋を出た**。

煌々と輝く丸い月は今夜も彼女の美しい横顔を照らす。胸の奥底に息を潜める不安など微塵も感じさせないほど、自信に満ち溢れた表情で**はゆっくりと廊下を進んだ。

―と、前方からやって来る見慣れた人影。

きっと踊りの練習でもしていたのだろう。汗ばんだ肌を拭いながら歩いてくる品の欠片もない"女"に向かって、咄嗟に歪みそうになる眉根を必死で堪えながら、勝ち誇ったように唇を持ち上げる**。


「……」
「…あら、ごきげんよう」


ハレムで暮らす女ならば、この時間この場所で、こうして従者とともに歩く意味を知らぬわけではないだろう。すれ違いざま小さく鼻で笑った**を、突き刺して引き千切るようなベルセリアの鋭い視線が射抜いた。

そうして中庭に差し掛かる寸前。背後で響いたのは―、荒々しく閉まる扉の音。

くすりと笑みを零しながら、またゆっくりと歩を進める**。次に彼女の視界に入ってきたのは、咲き誇る大輪の花。艶やかな芳香を放つそれがこの庭の造り主であり、**の今一番の警戒の対象でもある"女"を連想させた。


 数多くいるハレムの女の中でも、あの女の存在を見過ごしてはおけない。ただでさえ、あの"貧しい街の出の女"なんかに先を越されたというのだから。

 王が唯一愛した、そして今も変わらず愛していらっしゃるアイリス様亡き後の正妃の座―…今度こそはわたくしが掴んでみせると、やっとチャンスが巡ってきたと、そう思っていたのに…。


「ローザ…あの女よりも先に必ず授かってみせる、王の御子を…!」


強い決意を宿した眼差しで手折った花冠が、ボトリと音を立てて地面に落ちた。―と同時、チクリと走った痺れるような感覚。


「!…っ、ぅ…」


指先を見ればつぷりと滲む赤い玉。傷口を唇に当て、**は明るく照らす頭上の満月を見上げた。彼女の瞳の奥で沸々と燃え滾る心火を見つめていたのは、真円を描く大きな月だけ。


「……**様?」
「…はい、今参ります」


従者の声に答えると、ピンと背筋を伸ばした気高き猫は、ひらりと身を翻して中庭を後にした。



*****



「遅かったな」
「申し訳ございません、支度に手間取ってしまいまして…」
「言い訳など要らぬ。…その分、今宵はお前が愉しませてくれるんだろうな?**」


豪奢な刺繍が施されたクッションに肘をのせ、広く大きなベッドに横たわる王の、深く鋭い瞳が妖しく光った。


「はい…仰せのままに」


細身ながらも筋肉質な上半身を惜しげもなく晒したまま、王がニヤリと笑う。蜘蛛の巣にかかったいたいけな蝶のごとく、絡め捕られた視線に誘われるままふらふらと近付く**。交わる視線だけで早鐘を打つ心臓にキュッと唇を噛んだ。

横たわる王は身じろぐ様子すら見せない。まるでこれから行われることのすべてを知っているかのように―…いや、一国を統べる全能な王である彼はたしかに知っていたのだろう。この目の前の勝気な美姫が彼の足下に跪くことを。

時折恥ずかしげに伏せた視線を泳がせながらも、桃色の頬をした姫はゆっくりとした動作で王の下穿きへと手を伸ばす。と、その時―


「…待て、たまには趣向を変えるのもいいだろう」
「お、王…?」


しゅるりと衣擦れの音がしたかと思うと、王の腰に巻きつけてあった絹布が流れるように滑らかな動作で**の両手首を緩く拘束した。


「出来るな?」
「…はい…もちろんでございます」


ベッドへと浅く腰掛けた王の開いた長い脚。その間に躰を滑り込ませると、**はムスクの香り漂う長い髪を揺らしながらそっと顔を近づけた。

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