=侍女(5)= 噎せるほどの香の匂いと幾重にも重ねた上質な布が**を覆う。 煌びやかな装飾、初めて施す派手な化粧。他の女達ならば誰しも浮かれ喜ぶほど美しく丁寧に着飾った**の気持ちは、かつてない程沈んでいた。 “彼”を忘れようと心は決めた。今後は気持ちを入れ替え、王の為だけに生きようと強い意志であったのだ。 しかしこの部屋へ向かう最中、やや離れた所から感じた禍々しい視線。思わずそちらに目をやってしまったことを激しく後悔したのは、その直後のことだ。 寵姫カトレア―――彼女の姿がそこにあったからであった。 **は後宮に入った当時から彼女が苦手であった。王への執着と、王が気にかけるその女達に対する激しい嫉妬心。カトレアと直接関わる事のない**にでさえひしひしと伝わってくるその感情は、彼女にとっては脅威以外の何物でもなかった。 恐らく自分が寵姫として迎え入れられる事が余程気に食わないのだろう、と**は悟った。彼女に一つ礼をして、急くように部屋の中へ身を隠したのだった。 これから彼女のような女達と共に先を競ってゆくのかと思ったら、それだけで**の心は奈落の底へ落ちていくような気がしていた。 ずっと共に働き過ごしていた侍女仲間達の手で飾られていく自分を、斜め後ろから冷めた自分が見据えているような妙な感覚がした。 全ての支度を整え、促されるまま王の閨へと足を進める。 窓に目を向けると、昨夜のそれにもまだ少し似た弦月が浮かぶ。 ああ、昨夜の事もあの月は見ていた。いずれは王の耳にも入るかも知れない。 ぼんやりとそんな事を考えながら、気を抜けば脳裏に浮かんでしまう“彼”の顔を振り払うように一度目を閉じ、開いたその双眸の色は強く、長い回廊の先を見据えた―――。 ***** 「侍女」 (written by ナナ/ネガティヴランナー) |