とりあえずの


静まり返った部屋に俯いていた白神の渇いた嗤い声が響く。

「はっ、はは!」

それと同時に黒子の肩に掛けていた左腕を黒子の首に回し、白神擬きは逃げようと藻掻く黒子の首を締めて逃がさないようにしている。さらに首元にポケットから取り出したナイフを当てる。その時狂ったように、口の端しを上げた様に見えた。

ぐっ!と首を抑え付けられて苦しいのか黒子がかは、と息を詰まらせる。


「どうしてわかったの?あーかしクン」

偽る事を辞めた白神擬きは下卑た嗤いで赤司に問う。人質としてとられた黒子は今にも泣きそうだ。


「黒子!」

「やめろ!」

焦ったように火神が黒子に手を伸ばすが青峰に止められる。

ナイフという刃物を突きつけられている今、下手な行動は謹むべきだ。真ちゃん、と呼ぶ高尾にも静止の合図を送る。赤司が行動を起こさない今、洛山は動かない。そして人質としてとられた黒子のいる誠凛も動けない。

海常、秀徳、桐皇の何人かが隙をみて白神擬きを捕えようと様子を見ている。


「知らなかったのかい?アイツは意外と律儀なんだよ。人としての常識を重んじる奴で、仲の良かったヤツなら尚更さ」

己の知っている白神炯至とこの白神では随分と違う。姿形は似ていても本質が違うのだから当然か。まあ、当初気付かなかったのだから偉そうにはいえないが。


「それに、アイツはアレで黒子第一主義でね。
あれの性格からして黒子を見つけた瞬間に飛びついていく筈だろう?あれはアレで苦労したが、分かり易い。それすらないとなると、勉強不足も甚だしいものだよ。」

はっ、と赤司が見下したようにそう言えば、白神擬きは溜め息をつく。


「…なぁんだ。」

刹那にして雰囲気がかわる。

黒子を助けようとしていた動きもとまる。

あの今吉さんですら目を見開いておどろおどろしい雰囲気に冷や汗を流していた。かくいう俺も、その雰囲気に飲まれつつあった。

それ程までに異様だったのだ。


「じゃあ、いいかぁ、」

そう言ったかと思うと。
白神擬きはナイフを左手に持ち替えて空いた右手で髪を掻き上げる。


「なっ!」

白神を知るやつも知らない奴も、驚愕する。
以前から白神の自慢だと言っていた白い髪が一瞬にして黒にかわったのだ。よくよく見ると、奴の眼も渾沌とした黒目に覆われている。


「それがお前の正体か」

すっ、と目を細めて相手を見定める様に赤司が変わってしまった白神にいう。


『そうだよー』

空気の震える音というのか。
それとも脳内に直接響いているのか。
そんな不可思議な音が肯定する。


「どうしてテツを狙った」

悔しそうにしている火神や黄瀬を抑えつつ、自身も今にも噛み付かんばかりに怒りを顕にした青峰が声を低くして白神擬きに聞けば、愉しそうにソイツは笑った。


『とりあえずさぁ、コイツ使えそうだなぁって思って』

「使える?」

そう俺が聞けば是とこたえた。


『だってコイツ、アイツの大事なヤツだろう?』

ぽろり、と流れた黒子の涙を舐める。
色は違っても姿形は白神なソイツに手を出すのに憚られる。

・・・あいつ?

今、この白神擬きはアイツ、という第三者を出した。

という事は此処にいる30人以外に人が、若しくはこの白神擬きが苦手としている何かが居るということだ。そしてコイツはその第三者との対抗策として黒子、及び俺達を連れてきた、という事だろうか。

ちらりと赤司を見ればアイコンタクトで肯定される。

やはり読めていたか。


どういうこと?
とこそこそと聞いてきた高尾に後で話す、と伝えれば渋々わかった、と了承した。

そう、まずは黒子を解放させなければ話をしようにもできないのだから。

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