とびらのむこう



ぎぃいいい、

と建て付けが悪い上油が刺さっていなかったのであろう観音開きの扉が重い音をたてながら開く。観音開きと言っても開いたのは片面のみ。内側に開くタイプだったらしい。

ぱらり、と扉の上から積もっていた埃が落ちる。


「お、人みーっけ!」

ドキドキと蛇が出るか鬼が出るか、はたまた人知を超えたナニカか、とばかりに恐怖に支配されていたこの空間は、その一言にふっと空気が軽くなるのがわかった。


「…っ、炯至、くん、?」

扉から現れたのは僕の幼馴染みで同級の白神炯至だったからだ。

今吉先輩が点けてくれた部屋の明かりだけが開いた扉の先を辛うじて照らす。どうやらこの部屋が突き当たりのようで目の前にはただ混沌とした闇がどこまでも続いている。


火神くんや紫原くん、緑間くんや黄瀬くん、青峰くんに絡まれている炯至くんが、外にいて無事だったことに安、堵…す、る、。


…え?


「…炯至は何処にいたんだい?」

その様子を見ていた赤司くんがなにか思案するように炯至くんな問う。ぴりり、とした肌を刺すようなナニカが違和感を覚えた。


「俺?分かんねェのよ。」

「分からない?」

炯至くんの応えに赤司くんが食いつく。
炯至くんを囲んでいた旧知の仲のキセキの世代も炯至くんが誰なのか解っていない人たちも、同じ高校である火神くんや日向先輩、伊月先輩たちもいまはそれらを黙ってみている。

なぜか、そうした方が良いと感じたからだ。

赤司くんの食いつきに炯至くんは何事も無いようにそう、と言って話を進めた。


「俺もどっかの部屋で目覚まして誘拐とか拉致とか考えたけど、待てども暮らせども犯人も誰も来ねぇじゃん?で粗方部屋の中探って見たけど手掛かり何も無し。」

これには困ったね!

なんて僕の方に体重を掛けて後ろから抱きつくものですから好きにさせる事にした。いつもの事だから。


「それで白ちんどうしたのー?」

紫原くんが先を促すと、そうそう、と炯至くんは赤司くんを見据えながら続きを話す。


「んで扉調べたら鍵掛かってねぇし、ラッキー!とか思って出たはいいものの真っ暗だし明かりもつかねぇしどうすっかなぁ、て思ってたらこの部屋から明かりが漏れてたからこれ幸いってな感じで来たんだよー」

大変だったんだからー!

なんて僕の頭を撫でながらぐりぐりするの辞めてもらってもいいですか。そこまで許してはいませんよ。


「相変わらずお前無鉄砲っつーかなんつーか」

「うるさいなー!お前も1人だったらこんなもんだって」

青峰くんがそう言えば、炯至くんはそう言い返した。


あれ?


「けど良かったっス!白神っちが無事で!心配したっスよー!」

「そっちも全員無事みたいで良かったわー」

黄瀬くんがそう言えば、炯至くんは笑ってそう言った。


どうして?


「ふん、人事を尽くせば心配要らないのだよ」

「そんなツンデレちゃって!」

緑間くんがそう言えば、炯至くんはそんな風に揶揄った。


背筋が、凍る、気がした。


「あ、あかし、く・・・」

「あかしたちも怪我とか何もなくてよかった」

僕が赤司くんに呼び掛ければ炯至くんはそう心配した様に声をかけた。

そして赤司くんは。


「敦、真太郎、大輝、涼太、テツヤ」




















今すぐソイツから離れろ


中学時代の、否と言わせない物言いで赤司くんは僕らにそう言った。


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