「こりゃあ、」

「凄いな……」

一繋さんとじいちゃんは呆然と向かい側のコートを転がるボールを見る。

「お前、本当にバレーやった事ないのか」

「はい、小学生の頃からバスケ一筋だったっス」

バレーは始めてまだ3日ッスね、と日数を数えていえば、こいつマジか、みたいな顔された。

ともかく、及川徹のジャンプサーブをまあまあの威力で再現する事ができたのは、これからの俺のバレーにとって大きな力となる。

バスケとバレーでこうも筋肉の動かし方が違うのかぁ……

涼太の完全無欠の模倣には劣るが俺も模倣する事はできる。しかしこれは、『模倣するスポーツの熟練度によって完成度が違う』ということが今回の及川徹のサーブをやってみてわかった。

「ふーん……」

ばしん、ばしん、
とボールを撥ねさせる。

さっきじいちゃんがやってた回転のかかっていないジャンプサーブ。とりあえずジャンプするのはやめて頭の中でじいちゃんのフローターサーブのモーションを再生させる。

エンドラインに平行に立って脚を肩幅に開き、利き足を後ろに引いて軽く膝を曲げる。頭上にトスを上げて、打つ方の腕を肩より後ろに引いてから、手を軽く開いて手の平の下、手首のすぐ上の部分で、打つ瞬間に肘をのばしてボールを押し出すように打つ。

 ボールはネットを越えて落ちる寸前にくんっ、と曲がり、コートに落ちる。

「あ、できた。」

「大和は1発で出来るから教えがいがなくてつまらん」
 
「まったくだ」

出来たらできたでこの言われようである。
なんと理不尽!

「でもな大和、トスを上げ過ぎるとボールを確実に打つことが出来ないでコントロール不足になったり、エラいトコ飛んでホームランすっから気をつけろよ」

「今の高さだとジャンプサーブになるからな」

 「ういっス」

今のはイケたけどホームランぎりぎりだぞー!とじいちゃんと一繋さんは笑ってる。2人の言葉を頭に刻み込む。
 
上過ぎず低過ぎず。

トスをまっすぐ上に頭の上まであげ、目が自然にボールを追えるような位置に上がっていることを確認。

もう一度同じ様にトスを上げ、身体から離れた位置にまっすぐ上がっているおデコの辺りで打つ。今度はボールに当てる手の位置を掌全体を使ってみる。角度は腕を直線とした時の掌約 ∠25°。

ネットすれすれ。

もう打ち分けに入ってやがる、なんて一繋さんの呟きは、その時聞こえていなかった。
 
次は叩きつける様な感覚でボールを打つ。
ボールが下向きの軌道をとってしまった。
これは注意かなー。
ネットにひっかかる。
ネットインでも入ればいいけど。
とりあえず白帯狙うようにやってみよう。

2、30本ほどフローターサーブを打ち込み、いよいよ本打ちのジャンプフローターサーブ。

回転をかけないようサーブを打つ感覚を身体に染み込ませ、ジャンプして、打つ。

「ジャンフロできた……」

「また1発で決めやがって」

「さすが俺の孫!」

「うるせぇ」

「一繋のトコの孫と違うんだよ!」

「ぁんだと?」

まさかの外野で一触即発ww
一繋さんの孫は……つまり繋心なんだが、俺といつも見舞いの時間がすれ違うらしく、俺が病院に着く頃には帰っていて、この特訓の事を知らない。

今は母方の実家の手伝いをしているらしくさっさと結婚すればいいのに、と一繋さんが言っていた。

とりあえずいい歳したジジイ共のケンカをじいちゃん達うるさい!と黙らせてジャンフロの叩き込みに入る。

「ジャンフロ打込むから何かあれば言って」

「「おう、わかった」」

見る専に徹したじいちゃん達は、時折トスの上げ方がダメー、回転かかってるー、なんてアドバイスなんだかヤジなんだかを笑って言ってた。

くっそ腹立つ。




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