水底の夜光虫 | ナノ

▽ 死ぬには至らないのが異形


目の前で倒れた少女を介抱してたらその兄ちゃんらしい少年になんか勘違いされてバンがさっくり牧草掻いたりするアレで刺された。
何を怒ってるのか意味がわからず、連れてく連れてかないの短い言い合いの末に避けもせずに刺されてたけど刺されてる本人が落ち着いてるんだからこっちがパニクってもしかたないだろう。
抜いた瞬間止血すればどうにかなるだろうし下手に抜いても失血死するだろうし。
ケロッと抜いたことには驚いたが。

誤解が解けて刺しちゃったことに罪悪感を抱いて泣きそうになる少年だったけど、確かに刺さったはずなのにバンに刺し傷なんて一つもなく(後で説明してもらわないとね)、バンが聞こえるか聞こえないかくらいの小さい声で何か呟いたと同時にどこからともなく槍が飛んできた。
それは見事にバンの胸を貫通した状態で止まり、私はその槍の上で片肘立てて寝転んでた少年の顔面にハリセンを叩き込んだ。

「いきなり何するんだ!!」
「いや、ハリセンが君に口付けたいってテレパシー送ってきたから……」
「俺の為じゃねーのかよ♪」
「お前はその身体について後で尋問だ。どれだけ泣き叫んで喘いでイヤがっても止めないからな」
「ガキの前で際どい言葉使うなっつーの」

槍が貫通したまま喋るものだから吐血しまくるバン。
槍の少年に無視するなと怒られたし、今の18禁状態のバンなんて不健全なもの見せてたら気分悪くなるだろうから私は子供達を回収して安全地帯まで疎開しようかね。
片腕ずつで抱き抱えれるほど軽い二人を小脇に抱えて一歩下がったら気付いたバンに畜生を追い払うように手を振られた。
……なんか腹立つなぁ。

庭だったらしい空間から枯れる寸前の噴水がある広場まで出たら少年にお兄さん!と話しかけられたが残念ながら今のところ性別は女だ。

「そうだね、イケメンの部類い入れてもらえるような面してると我ながらに思うけど私は女だよ」
「えっ……ごめんなさい…」
「いえいえ、で。何の用事だった?歩きながらでいいよね」
「あ、はい…あのお兄さん助けないとし、死んじゃうんじゃ……」

その言葉で妹さんの顔真っ青になりましたよ、お兄さん。
大丈夫大丈夫と軽いノリで言ってもでも、と言い淀む少年。
昔、バンから離れなくちゃならなくなった時からダルマリーで飛びかかられるまでバンの情報どころかこの世界の情報が一切入ってこない場所にいたから彼に何があったかはわからない。
ただ一つ言えるのは少年に刺された時の反応も、槍が貫通した時の反応も死に慣れてるかまばたきの間に傷が完治する者の反応だった。
昔は確かに怪我したら痛がってたのにそれもない。
何も感じていないみたいに。
それを人はなんと呼んだだろうか?
故郷の世界ではそれを神と呼んでいた。
命の限りがなく、死に方が一つしかなかったのが神。
木っ端微塵に破壊しても、溶かして液体にして気化させても何時の間にか元の形を形成しているのが神。
だったらバンは?神や私達異形とも違う気がする。

「……あぁ、ただの人間の不死者か」
「えっ、何か……?」
「別に気にしないの……っと」

考え事しながら歩いてきたら【豚の帽子】亭が近くに見えるほど遠くまで移動してきていたらしい。
時々砂埃と何か飛んでいるのが見えるけど、楽しむのはいいとして村を壊すのだけはやめたげて。
この子達が住む場所なくなっちゃう。

「さて、ここまで移動してきたのはいいものの、バンを待ってる間暇だからなんか与太話でもしてあげようか」

青ざめたまま戻らない少女の気晴らしぐらいになればいい。

「これは透明だった少年と多彩だった少女の話なんだけどね。全ては彼女が彼を見つけた時から始まっていたのさ。────……‥・」

本当にくだらなくて、愚かな二人の話。





吟遊詩人的な副職のクレイオス。



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