水底の夜光虫 | ナノ

▽ 間を知る者達と犬の心境


メリオダスによって殺される訳でもペットにされる訳でもなく無事に逃げていった黒妖犬を名残惜しそうに見送ったクレイオスは次の目的地がどこかを聞いて固まった。

「目指すは死者の都。そこでキングを探す」

留守番したい……キングって人には悪いけどスルーするか留守番してたい……
クレイオスの脳内にはその言葉ばかりが巡って回っている。

「冗談だろ、団ちょ〜。クソデブは死んだって話じゃねぇのか?」
「今んとこ手がかりはそれだけだし、行くだけ行ってみよーぜ?」

手配書に落書きしながら胡散臭そうで面倒そうな顔をするバンを見て、この世界の者達は死者の魂を引きずり出してでも仲間に入れようとする鬼畜の集まりかとクレイオスは眉間に皺を寄せる。
尤も、クレイオスの仕事先の世界では重要な役職に就く者達は全員、死んでも生き返らされて仕事させられるというブラック企業も真っ青な鬼畜社畜家畜精神が根付いており、それが普通だと思っているが。

クレイオスには彼女曰くヤンデレメンヘラサイコパスクソ生ゴミ野郎な人物に会いたくないという理由ともう一つ死者の都に行きたくない理由があった。
救いのない死者と目が合ってしまえばどんな者でも憑いてくるのだが、その者達を消し去る様を人には見られたくなかった。

「メリー少年、私だけ近くの山道で待機ってのは……」
「何言ってんだ。仲間を置いて行けるワケないだろ(キリッ」
「デスヨネー」

キリッとしても楽しんでるのバレバレだよ……。











オスローは友人と人間の男の会話をじっと聞いていた。
人の言葉を話せない自分が会話に入れないのは元より承知だが、友人がこの男と会うこと自体がオスローはあまりいいとは思っていない。
故郷がなくなってしまったのはとても悲しいことで、その犯人に復讐したいという気持ちも犬ながらに共感はできる。けれども……
ヘッヘと口でしていた呼吸を鼻で行えばピィー……という情けない音が漏れた。
オスローの友人であり、手配書と似ても似つかない風貌をしているが同一人物であろうキングはそのオスローの様子を悄げているものだと勘違いして頭を抱えるようにして撫でる。
柔らかい、優しい花の香りがする友人のとこがオスローは大好きだ。
彼の手助けならばなんだってやってやろうと思える程に。
けれども、だけども復讐の身を焦がしてはほしくない。
復讐なんかよりも生き残っていた妖精達のことを考えて森を復興させることに目を向けてほしいのに、この口ときたらボフンとしか発しないなのだからイヤになると彼は本当に悄げた。

「そういえば、キミらの探してたものは見つかったの?」
「あぁ、それのことなら問題ない。死者の都にいる男が見つけだしてくれたよ」
「……へぇ、死者の都にいる男が、ねぇ……」

きゅっと握り締められた己の首もとの毛でオスローは友人が何かに耐えていることに気付いた。
ここ数日、友人は死者の都に行こうと四苦八苦していていまだに行けなないというのに、限られた情報から察するに人間の男の知り合いは自由に行き来できるらしい。
それが悔しいのだろうとオスローは鼻を鳴らして友人を慰める。

「クレイオスだっけ?超要注意人物で八つ目の大罪とまで言われてる正義の罪。何で白紙の本を盗んだだけで道具を探してまで追い詰めるのか……人間のすることはイマイチよくわからないね」
「さぁ?あれは神と名付く者達にしか読めぬ書物だと教えられていたが、昔見た限りでは私には理解できない代物だったよ」
「神ねぇ……キミはこのガスマスクの白髪頭が神に見えるかい?」
「いいや?盗人は盗人だが……もしこれが本物の神だったのなら名はヘルメスなのだろうな」

ひらり、とキングが持っていた手配書がオスローの視界にも入った。
顔は見えないけど垂れた猫の耳のような白髪頭は今さっき見たものと一緒で、思わず知ってるよ!さっき見たよと尻尾が揺れる。
自分に不思議な機械を向けてきた×印のついたマスクをしてた人。
初めは何だと驚いたけど、何故か途中からかっこよくしなくてはならないと思って思わずポーズを取っちゃったんだと今度は恥ずかしさからオスローは尻尾を丸めた。

「?」

その様子をキングは不思議そうに見守る。
種族の壁というものはこんな所にでもできるらしい。





オスローはいい子



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