水底の夜光虫 | ナノ

▽ 正義と底辺の基準


「嘘は言ってないけど足りてない説明という狡賢いい手で難を逃れた我々一同であったが、ディーちゃんのメリー少年に対する愛にて全て水の泡となってしまったのだった」
「なんだよその口調♪」
「昔こんな口調の鎧に追いかけ回されたのを聖騎士見て思い出したんだよ」
「やめろ。似合ってねぇ」
「じゃあ戻そうか」

え、あいつら冗談で気付かないって漫才繰り広げてたんじゃねーの?真面目に気付いてなかったの?鶏でも攻撃対象は何日経っても忘れないってーのに上司から与えられた情報もロクに使えないとかマジ何の為に検問張ってんだよって話しじゃん。無能。無能じゃん。まだ軍鳩のが使えるよ。ちょっとミカンみたいに旋毛に指立てて頭皮ぱっくり剥いて頭ん中洗浄いいんじゃないの?
そうクレイオスが無呼吸で言ったのが聞こえたのか、聖騎士達が膝から崩れ落ちた。
エリザベスもディアンヌも正体がバレたことよりもクレイオスの蔑みに青ざめて涙目になっている。
何が怖い……ってこれを冗談っぽい表情や冷たい視線を向けて言っているのではなく無表情で言い切ってることだ。

泣きながらなんとか立ち上がってホークママを見上げた聖騎士達にバンの陰からうわ、顎髭に鼻水ついてる。きったね。なんて追い討ちを掛けたクレイオスを流石にバンとホークが諫める。
挙げ句の果てには×印のついたマスクまでつけられたクレイオスは拗ねたように目を細めた。
そんな様子をディアンヌに掴まれたままどっちが子供なんだとメリオダスは思った。

「こ、この人の心に槍突き刺してグリグリ回すように傷口広げるような性格と白髪に据わった目……貴様は八人目の大罪!!正義の罪・クレイオス!」
「八人目ぇ〜?」
「つーか正義なのに罪、って……」
「勝手に言ってるだけさ。行き過ぎた正義も罪……ってね」

これだから見つかりたくなかったんだよ……とマスクの下でもごもごと言うクレイオスがディアンヌとホークの言葉に答える。

「それってどういう……」

エリザベスが問おうと口を開くが、クレイオスの目つきがはっきり鋭くなったのに気が付き口を噤む。
しかしそれは問いた己を責めているのではなく、クレイオスの隣に立つバンも、メリオダスも、ディアンヌも何かを探すように警戒を強めているだけだったのだと気付いたのは瞬きしたその後。

ホークママとディアンヌの周りを翻弄するかのように何かが跳ねるように走り回る。
いつもならそれで獲物が戸惑い狩りが成立するのであろう。
実際にメリオダス達も目が追いつかずに黒い影が残像として見えるだけだった。
しかしクレイオスだけは一筋縄には行かない。

どこかの世界で見たカメラを作り出して三脚までをも用意したクレイオス。
手には遠隔でシャッターを下ろすスイッチを握り────

シャカカカカカカ──‥…

シャッターは連写で下ろされた。
単純な話だ。
トンボの目は角膜と数個の視細胞からなる単純な「レンズとフィルム」の構造をした個眼が複数大量に集まり、個眼それぞれの情報を統合することで高い視覚を得ることができている。
だからこそどれだけ早く動いて捕まえようとしても逃げられてしまうのだが、逆にそれを自分達が持っていれば素早いものが見えるようになるというものだ。
その補助となるものがクレイオスが作り出したカメラであり、彼女の目論見通りそれはばっちり写っていた。

黒字の毛皮に模様のように走る傷跡。
しなやかに伸びる四肢に無駄のない筋肉のついた胴体。
何故か顔だけはカメラ目線でちょっと作られた決め顔にクレイオスは固まった。

彼女が固まっている間に聖騎士の1人は食われて鎧だけを残すことになり、怖じ気づいたもう1人もあっという間に腹に収まってしまった。

「あわわ…やべぇよありゃ…。黒妖犬だぜ…!!」
「あれがこの世界のブラックバウンド………可愛い」
「「「「「え/ハァ?!」」」」」
「何考えてんだよ!!狙った相手には絶対背を向けず、仕留めるかてめぇの命尽きるまで追いつづける…!!とんでもなく凶暴な怪物だぞ!!」
「私の仕事先のブラックバウンドはな、顔面がザクロみたく弾けてたり脇腹から蛆虫湧いてたりそれはもう、流石最下層の住人って姿してるんだよ」

それに比べたら無茶苦茶可愛い、と片手にカメラ、片手を握り締めて目を輝かせるクレイオスに5人は哀れな目を向けた。
どれだけ残念な世界なんだよ、と。
このままでは飼いたいとまで言い出しそうなクレイオスを危惧してバンは内心慌てながらホークママから飛び降りる。

「ったくよ〜。快適な旅の邪魔しやがって……。それにあいつのお気に入りは俺だけでいいんだよ…殺すぞ?」
「バン、なんかボソッと言ったぞ?」
「何で背ェ向けてんのにそのボソッとが聞こえんの?地獄耳?」

警戒心で大きくなるという黒妖犬がバンの強さに反応して大きくなったのを見たクレイオスは、いつもは据わっているはずの目を丸く、更に輝かせて跳ねた垂れ耳のような横髪をピコピコと動かして正にお気に入りを見つけた子供のように静かにはしゃぐ。
ホークママの鼻先に立つその姿を後ろから見ていたメリオダスは思った。

バン……逆効果だぞ。と。





何て言ったのか聞こえてたメリー少年。



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