朝方、カルキノスが帰ってきた。どうやら無事に拠点を見付けられたらしく朝日に照らされながら清々しそうに脱皮していた。
2人の1週間振りの食事を与えて私もネグリジェから仕事着に着替える。
ワイシャツにみんなと同じジャケットではなくベストを。際まで切れ込みのあるロングスカートとロングブーツを履いて、髪に手櫛を通して終わり。準備完了。
結構前から伸ばしていた髪を鬱陶しいからとノヴァ並に切って正解だった。みんなはショックが大きかったみたいだけど。

メイドトリアーデの為に作った「蛇、外出中」の掛札をドアノブに掛けていざ食堂、ではなくキッチンへ。
医者からお墨付きの超低血圧の為、朝は食べない確率の高い2人組のうちに数えられてる私が朝食にありつくためにはキッチンに存在を伝えに行かなければならないのだ。
案の定朝食を作っていたマーサに驚かれ、調子がいいというのに病人食を勧められる始末。そして食堂に行っても驚かれる始末。パーパには泣き抱き着かれるという特典付き。

「パーパ、それ以上締められると二度寝するからやめて」
「何!?そんなに俺の腕の中は居心地がいいか!そうか!」
「パーパ気絶しそう!アルバ気絶しそうだからぁぁあ!」

こりゃ何言っても無駄だと無抵抗になった私に慌ててリベルタが止めに入る。若干ミシッと音がしてたからありがたい。
解放されて運ばれて来たリーゾ·イン·ビアンコ(病人食じゃなくて大丈夫って言ったのに…)に手を付ける。あまり馴染みのないものだからだろうか、もの欲しげに視線を送ってくるパーチェに本来は体調悪い人向けの食事だと言えば食べれる機会はなさそうだとしょんぼりしながらラザニアを頬張ってた。
確かに無縁だろうね。

「それで?今日のスケジュールはどうなっているんだ?」
「ジョーリィと研究費削減の論破大会で昼過ぎまで
潰れる予定。その後パーチェの給料率いては棍棒達の給料から今月のツケを全部頭下げながら払ってく簡単なオシゴトが待ってるかな。あとは机の上見て見ないとわかんない」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…ジョーリィ、パーチェ」

パーパの低い声が食堂に響く。2人から視線を感じたが私は悪くない。私はノヴァの質問に答えただけだもの。
パーチェが午前中内に全部払いに行ってきます!と最後のラザニアをかっ食らって逃げるように出ていった。さて、そうなると標的は1人になる。
巻き込まれないようにといそいそと他のメンツが立ち上がる中、ダンテが苦労を掛けるな…と労わっているのか私の肩をぽんと叩いた。いえ、みんなの財布握ってると思うと楽しくて仕方ありませんので平気です。
ジョーリィとの論破も色々勉強になるから楽しい。生態学や人体学に至っては独学とはいえ私も齧っているからそれがどこまで通用するのか試す場にもなってるし。
デビトからは関わるなと言われているが色んな事を含めても関わらないわけにはいけないのだ。

言い負かす為の資料と追求点を探し出し、更にそれを追求した時にはぐらかされたり言いくるめられたりしないようにするためにはさっさと食事を済ませて実験室に向かう時刻まで最後の詰め込みをするべきだろうな、と最後の1口を詰め込んで席を立つ。
立ち食いなんかしたらルカや直属の部下が煩く言ってくるだろうが、鬼の居ぬ間になんとやら、だ。

ちょっと寄り道して私の仕事(会計)部屋に行けば1リズマ程の山しかないがもう既にその半数分程の用紙を手近に置いた部下は算盤を弾いていた。

「遅い。5分の遅れですよ」
「ごめんごめん、いやでも毎度言ってるけど猶予はほしい」
「その猶予の5分から更に5分遅れは見逃しません」
「それは…すみませんデシタ…」

上司に向って当りが強い気もするけど仕事時間に入ってるんだからそれも仕方がない事で別に気にしてない。更に勤勉家で1つ教えれば応用知識も勉強して10覚える辺りが気に入ってる。…聖杯に取られなくてよかった。

「今日はあの嫌味グラサンと話し合うんでしょ?そこの資料、重要そうなところにライン引いといたんで」
「…ホント優秀だね。ツァンナは」
「当たり前です。貴女の"牙"が優秀じゃなくてどうしろと」

さらりと言って退けるところがこれまたかっこいい。流石私が見込んだだけのことはあると少しは自画自賛してもいいだろうか。

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