生きたいか死にたいか、その質問に疑問を感じる。
俺はまだ生きているのか、こんなリアリティのある夢を見ているのか、と。
夢は記憶の整理として見ると過去にルカが言っていたが、俺は人身売買の現場に立ち会ったことも、オークション会場に入ったことも、あんな化け物共に遭遇したこともない。どういうことだ。
目の前の仕立て屋と呼ばれた男は回答を待つ間に司会者の懐をまさぐって檻の鍵を見付けたらしく、扉を開けて俺を出そうと手を伸ばしてくる。
思わず払い除ける。その手は伸びっぱなしの爪から未だ鮮血が滴り落ちていた。
ああ、仕舞い忘れてたと払われたのを一切気にしてない口調で手を閉じたり開いたりしている仕立て屋だが、その切れ味を見せられていた俺からしたら忘れんなよと突っ込みたくて仕方ない。
自力で檻から出てジャケットについた埃を払いながら男に視線を向ければ、視線を宙に這わせ、獣の耳を忙しなく動かしている。

ヤバいな、と男が呟く。
焦ったように俺の腕を引き近くにあった死体の山に俺を投げ、上に数体の死体を投げてきた。
完全に脱力しきった死体が3つ乗れば流石に重い。
何すんだと声をあげようにも切羽詰まったようにいいと言うまで黙って死体になってろと言われてしまえばイヤでもそうしなきゃならない状況が来たと理解してしまう。
遠くから聞こえはじめた大勢の足音が聞こえてきた頃、男が取って付けたように鼻歌を歌いだした。
それに重たい物を俺の近くに投げる音。

足音は的確に近付いて来る。男のペースは変わらない。
扉が蹴破られるような音とこれはどういうことだ!と低い男の声。
それに応える仕立て屋はキヒヒと笑っている。

「生きた人間を出品しますー、なんて告知こっそり知らせてもこの仕立て屋の耳には無意味だっての」
「っ!!殺せ!いくらアノマリーであろうとも肉塊にすれば生きられまい!!」

急に現れた気配、それから発砲音。
悲鳴はない。乱れることのない音。
足音も、声も銃声に掻き消されて聞こえないが、唯一聞き覚えのある肉が削がれる音が聞き覚えのない程連続的に聞こえてくる。
どうする、どうすればいい。不意打ち食らってあいつは殺されている最中なのか?
蜂の巣にされて死なないやつはいない。
あいつが死んで、この会場の清掃で死体の運び出しが始まれば俺の存在はバレる。
能力を使うか?だが化け物共に能力が効くのか、それ以前に使えるかどうかわからない。
発砲音が止まる。だが男が崩れ落ちる音がいつまで経っても聞こえてこない。
どういう事だ、と小さく聞こえる。
仕立て屋の声じゃない。さっき入ってきたやつのだ。

「っ!化け物め!」

2発の発砲音。それでも男が倒れた音はしなかった。

「みんな撃ち切った?成果は…えーと?眼球2つと片耳と指が4本、肺に3発背骨に6発か。VIP賞はこめかみから頭蓋にヒビ入れたやつかな」

男はそう言った。
まるで的当ての的が点数を発表するかのような発言は俺以外のやつでも理解はできないと思う。
靴底を引き摺る音がする。
誰かが怖気づいて後ずさったんだろう。

「ここまでされると流石にリペアしなきゃならん…が生憎素材を切らしててさ。客達はストックにするとして、パーツ寄越せ」

バタンと扉の閉まる音が響く。
死体の山で視界が塞がっているから憶測だが仕立て屋が何かの方法で閉めたんだろう。会場がざわつく。
ふと体にのしかかっていた重みが和らいだ。
そして視界が広がる。
余す所もなく血で染まった仕立て屋と、そいつを囲むオークション関係者のやつら。そしてその全てを囲む立ち上がった死体達。

「仕立て屋は死体を紡いで使える身体を作るだけじゃない。手を加えていない死体であっても自分で手に掛ければ使えるのさ!」

逃げ惑うやつ、頭を食われるやつ、両腕を引っぱられて裂けるやつ、その中でひとり高らかに笑う男。
異常で異様な光景だ。
身なりのいい主催者であろうやつは扉を蹴り開けようとしてるけど開く様子はない。
仕立て屋が主催者をなぞるように縦に1度だけ指した人差し指を動かせば、頭から綺麗に左右に別れて崩れ落ちる主催者。
高らかな笑い声は次第に引き攣り笑った声に変わり、踊っている肩を収めながら仕立て屋は俺の方を向いた。
そしてツカツカと寄ってきて何をされるのかと思ったらなんの確認もされずに俵担ぎにされた。
反論しても笑って誤魔化される。
頭ぶち抜いてやろうかと思ったが、もう撃ち抜かれた痕跡がわんさかとあるのを思い出して弾の無駄遣いだとやめた。
外に出ても下ろされない。
どこに向かってるんだと聞けば簡素に家だと返される。

空の色は薄紫、生える木々は毒を連想させそうな色合い。
自ら素材になる為に俺らの後ろに続く死体達。
それだけでもう、ここは夢の中か異世界だと自覚させられた。

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