■ 嫌われ

「これがバレンの滝か……」
「これより南は獣ヶ原……凶悪な獣がいる危険な場所ですぞ」
「だけど後戻りすれば帝国軍いるし、魔列車行きだけど?」
「う……フム。獣ヶ原をぬける事ができれば東の海岸沿いにモブリスという村があるはずでござるが……」

私の言葉に苦い顔をするカイエン。
もう魔列車は嫌だもんな。
私だって願い下げだ。

そう、ここは迷い森を抜けた先にあるバレンの滝。
ここから下に降りれば取り敢えずの目的地である獣ヶ原だ。

「俺の役目は終わったようだな……」

今まで黙っていたシャドウがそう言い、この場を去ろうとした。
戻ってどこに行くのだろうか。
ついて来てくれれば心強いのだが、彼にも予定があるのだ。
無理強いはできない。

そんなシャドウを止めたのはマッシュだった。
止まったはいいが振り返らないシャドウに気を悪くする事なく彼は太陽のような笑顔を浮かべている。

「お前には世話になったな。また一緒に冒険しようぜ」
「今回のお礼。今度奢らせてよ」

私も便乗して言ってみたが、シャドウは何も言わずに、代わりにインターセプターが尻尾を振って行ってしまった。
だがそれが彼等らしい。
世界は意外に狭かったりするからきっとまた会える。
その時は無理矢理でも酒場に引っ張って酒樽一つ分奢ってやろう。
インターセプターには乾し肉かな。

暫くシャドウの消えた方向を見ていた私だったが、マッシュに声を掛けられて崖の上から滝壺を探す。
いや、見えない程高いんだけど。
これを飛び降りなければならないと思うとなんとなく高所恐怖症じゃなくても億劫になる。
着地地点誤って地面に激突したら一溜まりもないだろう。
それに、この水に塩分混じってたらマズい。
腕錆びる。
前回は人工皮膚もそこまで傷んでなかったし、風呂で念入りに洗い、磨いたから無事だったが、今回は鋼剥き出しの状態+生活防水加工しかしてないし、次の村までの距離が分かっていないからなるべく滝に触れたくない。
てか魔列車までずっと片腕で頑張ってた私を誰か誉めてくれ。
食事中に魔列車の部品使って大方直したけど。

「ストップ!待った!ちょっ、マッシュ!」
「もうムリだって!」
「最悪だっ!」

オピニンクスの群れがマッシュに引っ張られて絶賛落下中の私達に当たって来る。
鬱陶しいからと殴ったり斬ったりしているのだが、増える一方だ。
群れの頭を潰せば早いのだが雑魚ばかりで肝心の群れの頭が現れない。
一匹一匹倒していけば見つかるだろうが落ちるのにも終着点がある。

……面倒だ。感電してしまえ。
空中から流れ落ちる滝の中に左腕を突っ込んで、腕を象っている鋼板に指をねじ込み指先に触れたレバーを引っ張った。
最大限の威力と破壊力を増すためにモーターが高速回転を始めて内部の機械を動かしに走る。
ピストンを繰り返す部品に滝の水が入り込み青白い小さな稲光を発生させた。
それは滝を包み、痙攣しながら落ちていく魚の雨を作る。
擬似が付くサンダガだけど、威力は御墨付きだ。
帝国兵で試した甲斐があったよ。

「「ぎゃあ!」」
「え?!あ……ごめん」

忘れてた。
二人は流れに任せていたから滝に浸かっていたんだった。
当初の計画通りに雑魚は0になったけど、感電して気絶した二人も流されて行く。
なんとか離れ離れにならないように二人を回収したのは良いが、迫り来る滝壺はすぐそこだった。


結局というか、予想通り滝壺に落ちた瞬間、滝の勢いに負けて手を離してしまいマッシュとカイエンは先に流されてしまった。
私はといえばさっさと陸に上がって、魔列車から拝借した工具で腕を解体してる。
水分の浸入を許してしまった左腕はやけに重たく、バーベルを片手に持っているみたいで肩が外れそうだったからね。
肩のジョイント部分にレンチ突っ込んで外して、エアロとファイアをうまく使って熱風を起こし、乾かす。
でも、これは町に着いたら本格的な工具でも買って解剖した方がいいかも知れない。

何はともあれ地面に叩きつけられる事なく無事に着地できたのでよかったとしよう。
マッシュ達もまぁ、大丈夫だろう。



さて、そろそろ魔物の気配も近付いてきたことだし、湿ってるの覚悟の上で腕着けようかな。
取り敢えず河川沿いに進んで行けば二人は見付かるだろうと敵を倒しながら進めば、遥か遠くの後ろから不意を突かれた。

乗り捨てられたものが意思を持ったのか、モンスター化した魔導アーマーの発したレーザーが私の脇腹を抉る。
気配が遠いからと気付かず油断していたから、抉られてやっと気付いた私は咄嗟に振り向き攻撃を避けながら懐に潜り込み、コアがあると思われる部分目掛けてサマーソルトを打ち込んだ。

気を抜きすぎてたか、瞬間的に近付く為に走った所為か、脇腹にできた傷口が悪化して酷いことになってきてる。
別に傷は気にならないけど、服(主にコート)が破れた事が許せん。
しかも血まで滲んじゃってる。

腹癒せに部品取りをして使えそうなネジとコードを数本拝借し、傷口には直接ポーションをかけてさて行こうかと立ち上がった瞬間、私の横をティナと同じ緑色の髪の少年が駆けて行った。

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