■ 間違い

苦笑いを浮かべながら降りれば、マッシュがいない事に気付く。
まさか落ちたことは考えられないし、安全確認をしに先に行ったのかと次車両に続く扉を開ければ、食事中だった。
ちくしょう、こっちはちょっとヒヤッとしてたのに。

でも、私も人間なもんで、2日間まともな料理を口にしてなかったものだからいいなとは思ってしまう。
……ウサギの丸焼きを料理とは言わせない。

「お、アレースやっと来たか。お前も食べるだろ?」
「これ使ってピッカンテって作ってもらえる?」
「こ、こんなもの食べて大丈夫なのでござろうか?」
「心配なのか?ま、いいんじゃないの。腹が減っては戦はできんよ」

作ってもらえた。
ってか普通に美味しいんですけど。

たまに思うんだけどさ、これだけ豪快なマッシュの身形整えさせて王族です、って言っても誰も本当だとは思わないだろうね。
本物の王族だけど。

「うーむ……拙者どうもこういう話は苦手でござるよ。まったく…」
「人は誰しも苦手を持ってるって」
「俺はアレースの激辛党なところが苦手だよ」
「?、美味しいよ、サドンデスソース」
「……普通の人間は死ぬぞ」

シャドウの呟きが聞こえなかったらしいカイエンが私のピッカンテに興味を示したんで分けてあげたんだが、断ってあげた方が彼の為だっただろうか。

ポーションの手持ちが一気に減った。

食後の珈琲までしっかり頂いて(カイエンには甘酒だ。ごめん、カイエン)次の車両。
特に変わった様子もなく、個室が二つあるだけだった。
そのうちの一室にあった宝はパクられた。
まったく、腹立たしいやつだなシークフリード。
今度会ったら身包み全部剥いでやる。

前から二つ目の車両には部屋が三つ。
流石に時間がヤバいからと調べずに通り過ぎようとすれば、ゆーくんが肩から降りて元の大きさに戻った。
マッシュとカイエンはゆーくんが肩に乗ってたのに気付いてなかったらしく、驚いて構えたが、何もして来ずにただ手を振ってるゆーくんを見て警戒を解く。
ここでお別れなんだろう、一室を指差して扉にスッと消えて行った。

もしかしてここまで来たかったけど、襲ってくる幽霊が多すぎて来れなかったのかも。

扉を開けば次がやっと、この魔列車の先頭車両だ。



車掌から聞いた三つのレバーの前で立ち往生する私達。
うん、話し聞かずに時刻表見てたから知らないぞ。

「早く列車を止めないと…ん?何か書いてあるな」
「マッシュ、適当にやるよ。なに、当たりは6通りのどれかだ」
「アレース殿おぉぉ!説明を、説明を聞いてくだされ!」
「ボタン押すぞ」
「シャドウ殿まで!?」

適当にレバーを下げ上げしてボタンを押す。
当たりだったらしく激しく揺れながら魔列車が減速していく中、何処からともなく低く重い声が響いてくる。

《私の走行を邪魔するのはお前達か!》

不思議な風が吹き私以外の三人を線路に吹き飛ばした。
潰されてないかとあせって線路を見てみれば一定の距離を保って走っている。
凄いな、機関車に合わせて走れるなんて。
そして機関車に意識があるなんて驚きだ。
しかも走りながら多彩な技を使えるなんて。

「アレース!感心してなくていいから止めてくれ!」

《止めさせるか!》

「……なぁ魔列車。今の仕事は楽しいか?」

《……何が言いたい。はっきり言え》

「このまま俺達が霊界に行くことになったら覚悟しとけ。手前の存在消してやるよ」

私にだったらできる気がする。
霊界で転生するのにストライキ起こして霊界パンクさせてやるからな!

《お前は……いや、聞くだけ無駄か。分かったお前達はおろしてやろう……だがその前にやらねばならぬ事がある……》

私の言いたいことが分かったのか、何か引っ掛かるような気がしつつもそのまま揺れること数分、外にいた私は流れる景色がゆっくりになり、到着するのだと悟った。
プラットホームに降り立ち、マッシュ達を待っていれば暢気な声と共に三人が出てきた。

「こんな列車とは早いとこおサラバしようぜ」
「はいよ。次乗る時は死んだ時がいいな」

カチャ

「ん?」
「あれは……!?ミナ!シュン!!」
「カイエン!お前の奥さんと息子さんか!?」
「出発するぞ!」

カイエンに押されて落ちたマッシュをプラットホームに上げた頃には既に列車は消え去っていた。
プラットホーム先端にはカイエンの姿が。
きっと最後まで追いかけたのだろう。
私達には掛ける言葉が分からずただカイエンの後ろ姿を見ていることしかできない。
昔の私も似たような体験をしたけどあんな後ろ姿をしていたのだろうか。

「人間が一番身勝手で残酷な生き物なんだよな……」

帝国が全ての元凶で、帝国が完全悪だと恨めばきっともっと楽になれる。
でもそれではだめだとも知っているから辛い。
辛くても悲しくても涙が出ないから、重い。
悪循環の繰り返しだ。
それでも、知っていても繰り返さなければいけないのだからもう、苦しい。
一言だけでいいから、呪いの言葉でもいいから言ってくれれば私は楽になれたのに……それもさせてくれなかった。
カルマは笑顔で消えた。
常に笑顔は絶やさなかったけど、こんな時まで笑顔じゃなくていいと思えるくらいの笑顔だった。

もう行こう、とカイエンが促してくる。
彼は吹っ切れたのだろうか。
私は未だに駄目だったりする。

罪と咎を背負ったまま私は生きてる。
私が自由であり続ける限り罪は増え、嘆き、恨みが膨れ上がり、枝分かれした導火線の先にある殺戮という爆弾に火をつけるのだろう。
今更遅い。
今更悔い悔やみ、罪滅ぼしの代わりにと彼女達を従業員にしても許しなど来やしないんだろう。

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