■ それ

「出るでござる!これは魔列車ですぞ!!」
「あ、やっぱり?」
「アレース殿は知ってて止めなかったのでござるか!?」
「あははー……」


ブオォォォー──……‥・


「動き出した!?」
「早く出なければ!」
「でもさ、こういうのに限って開かないんだよねー」
「……縁起でもないことをいうな」

数回カチカチとノブを回したり蹴ったりしたがやはり開きそうにない。
ほら、お約束のパターンじゃないか、知ってたさ。

何度か試行錯誤し、それでも開かない扉を最後に恨みがましく思いっきり蹴って魔列車の事を詳しく知ってるらしいカイエンに聞くことにした。

存在はしってても細かいことは知らないからね。

「この列車は?」
「これは魔列車……死んだ人間の魂を、霊界へと送り届ける列車でござる」
「……待てよ。ってェ事は、俺達も霊界とやらに案内されちまうって事か?」
「このまま乗り続ければ、そういう事になるでござる」
「そんなのごめんだぜ!降りられないとなれば、列車を止めるしかないだろう。取り敢えず最前両の機関車へ!」

乗る前に見た限り、この後ろにも車両があったみたいだけどそっちは見なくて大丈夫だろうか。
実は最後尾にブレーキがありましたー、なんてオチとかはやめてほしい所なんだけど。

「……後ろに行きたいのか?」
「うん」
「だ、そうだが?」

私が後ろを気にしてたのに気付いたシャドウが前にいたマッシュ達にそう話し掛ける。
振り向いた二人は全く違った真反対の表情を見せた。

「列車を止める為の手掛かりがあるかもしれないからな、行ってみるか!」
「……本当に大丈夫でござろうか」

渋るカイエン。
ごめん、何もないかもしれないけど見ときたいんだよ。


最後尾の車内に入れば中には顔が見えない程帽子を目深に被って俯き加減の車掌さんが1人、佇んでいた。
車掌ならば知っているかもと列車の止め方を聞いているマッシュ達を横目に近くに置いてあった時刻表に目を通せば、それはある日を境目に空白を決め込んでいた。
20年前までは細かく丁寧に書かれているのにぱったりと書き込まれなくなった最後の日付を私は知ってる。

「貴方は知ってますね?その時刻表が空白の理由を」

身体の向きはマッシュ達に向けたまま車掌は私に言う。
そうだ、これは、この日は私とあの人が帝国から脱走した日だ。
帝国付近にあった地図にも載らないような小さな村が幾つもなくなった日。
人工魔導士の戦場実践導入の日。
あの日、私は力も罪もない人々を皆、霊界送りにした。
魔導の力によって動かされ、考えることを知らず、どうやって身体を動かすのかわからなかったけどその分、記憶ははっきりしている。

雷撃により吹き飛ばされた村で、私を回収しようと近付いてくる兵士をことごとく感電死させる私に近付き、さっさと担ぎ上げ、帝国とは反対の方向に逃げたカルマ。
でも、死からは逃げられない。


最後尾の車両から勝手についてきた幽霊の隣に、ボウッと前車両を目指し歩きながら考える。
そうか、霊界か。
そこだったらあの人に会えるかもしれない。
生きていると願いたいけど霊界での方が絶対会う確率が高い。
会うとしたらきっと、地獄でだろうね。

何事も経験だと言うし、戻ってこれるのなら霊界にも行ってみたい……マッシュ辺りに怒られるだろうけど。

ならば、一緒に、来い

「アレース!囲まれてるぞ!」
「は?うわっ!」
「ボサッとするな」

前を歩いていたシャドウに左手首を掴まれて引っ張られ、隣にいたはずの幽霊に背中を押された。
瞬間、背中を撫でるひんやりとした空気に振り向けば、今まで私が立っていた場所にローブを纏った幽霊が床から湧いてくるじゃないか。
榎茸を思い出した私は悪くないと思う。うん。
あとちゃっかり背中に乗るな。
背後霊、又は守護霊か。

「あ……ありがとう、シャドウ。ゆーくん」
「……………幽霊だからか」

逃がすか……

先に逃げ道を確保しに行ったらしい二人のあとを追って外に出たけど、二人はいなか……見回したら上にいたよ。
動かない左腕を引っ張り背中を押されて屋根の上に上げられれば、シャドウはさっさと前車両に跳び移っていた。
慌てて真似して跳び移れば幽霊達も追って来ていた。
ちょ、怖い。

ゆーくんは背中に乗ってる分の余裕があるからか、追ってくる幽霊に攻撃を加えてる。
三車両分ぐらいだろうか、ある程度まで逃げた先にカイエンとシャドウを見付け、その車両に降り立ったところで今までいた車両が音を発てて遠ざかっていく。
下を見てみたらマッシュが列車の結合部分を殴り壊してた。
なにそれ凄い。
あ、でも拳から血出てる。
あとでケアルでもしてあげようかな。

……あれ、少しでも遅れてたらアウトだった?
車掌さんも乗ってたし、霊界に届けなければならないであろう幽霊達も沢山乗ってたのによかったのか?
ゆーくんは霊力でもなくなったのか、小さくなって肩に乗ってる。


「ギリセーフ……」
「アレース殿!大丈夫でござるか?」
「生きてるから平気……大方マッシュが『アレースなら大丈夫』って言ったんだろ?」

確かに言っていたでござると頷くカイエン。
間に合わなかったら末代まで呪って、いや、末代なんてなくしてやるとこだったと笑って言えば、顔蒼褪めてた。
そういやカイエンって冗談通じない人だったね。

[ prev / next ]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -