■ 覚えて

懐かしい小屋の夢を見た。

帝国の近くに隠されるように森の中に建てられている元折檻小屋を拠点として脱国した私と彼女は、あの大陸から出るまで活用していた。
元折檻小屋だったとはいえ、中はそう汚れている訳でもなく、駐在の為のベッドや机もそのまま放置されていた為、そこでの生活は苦ではなかった。
……まぁ、そこにいた間は人形宛ら自分で動くことは疎か、考えるということも何も知らなかったけど。

「アレース」

思ってみれば私の名前、アレースは彼女が番号は名前じゃないと勝手に付けた名だった。
あの時は言葉の意味なんてわからず、ただ、1日の内に何度も目を見てそう呼ばれたものだからアレースと言われたら目を合わすものだと思い込んでたっけ。

……犬みたいだったな、私。

「お前さんのやりたい事をやればいいさね」

自分から行動したのはいつだったか。
それを考え出したら変わる風景。

……そうだ、今の店がまだ小さかった時だ。
営業終了後の片付けの途中、机に伏して寝てしまった彼女が寒そうに見えて自室から掛け布団引き摺りながら持って行ったんだ。
結果としては私が風邪を引いたんだけど泣いて喜ばれたんだっけ。

「アレースを好いとう人がいただろ?」

振り向いたら狭い店のあの椅子に偉そうに脚を組んで座ってる彼女、カルマさん。
笑顔を絶やさなかった彼女は何時もの太陽のような笑顔ではなく、柔らかく微笑んでいた。

「悪いモンからは姉ちゃんが守ってやっから、アレースはマシアス君を安心させに行きんさい」

言われなくとも。
声は出なかったけど伝わったのか、彼女は奥にあった扉を開けて行ってしまう。

そうだね。
これが走馬灯ならば死にかける訳にはいかないな。





目が覚めた時、私がいた場所はマッシュの背中だった。
私が身動ぎしたのに気付いたマッシュが、記憶があるまではいなかった男の人とシャドウに声を掛けてからその場に私を下ろした。
この大陸に来てからマッシュに背負われてばかりだな……

私は毒の入った瓶で殴られ、中身を引っ被った状態のまま川に落ちたらしい。
マッシュが川から引き上げた時、すっかり気を失っていて一瞬死んでしまったのかと思ったとか。

勝手に殺してくれるなよ。

「ご迷惑をお掛けしました……」
「いいけどさ、もう無闇矢鱈に突っ走るなよ?」
「自重します。……うん」

それから私が落ちた所為で毒の水となった川が気化し、下流にあったドマを全滅近くまで追い込んだ復讐として帝国兵に一人で立ち向かっていたドマの武士のカイエンさんがマッシュ達と手を組み、適当に荒らした後逃げてきた、と。

足手纏いもいいとこだ。
しかも、私が川に落ちてなければドマは無事だったかもしれないとか……下げた頭を上げられない。

「顔を上げなされ、アレース殿」
「ですが、」
「先程、毒を原液で浴びたとマッシュ殿から聞いたのだが、大丈夫でござるか?」
「あ、それは頑丈なんで平気でした」

普段中々使わない敬語で返せばマッシュに苦笑されてしまった。
失礼な、私だって時と場合によれば敬語ぐらい使うさ。
次に通るのは迷いの森、というところらしい。
迷わないようにしなければいけませんね、とカイエンに言えばタメで構わないと言われてタメ口になった途端、マッシュに笑われた。
ちくしょう、あとで後ろから小石蹴って踵に当ててやる。



で、なんやかんやで何事もなく、迷いの森に到着できた。
迷いの森ではアンデッド系が多い所為か、霧が立ち込め、名前の通り何時の間にか同じ場所に戻ってきてしまうのを何度も繰り返してしまう。
やっと見付けた回復の泉付近で休んでいても、アンデット共は何処かしらから現れて僕達の血肉を求めて攻撃を仕掛けてくる。
倒しても倒しても昇天せずに舞い戻ってくるゴーストにいい加減に陶しくなり、荷物を纏め先を目指したが、あったのは出口ではなく列車が留まっているプラットホームだった。

こういう時、一番に行動するのはマッシュで、カイエンの制止も気にせずに行ってしまう。

「生き残りがいるかも知れない!調べよう」
「(いや、でもこの列車……)」
「おっ!ここから中に入れそうだ」
「マッシュ殿!」

警戒心なく入ろうとするマッシュにすかさずカイエンが実力行使で引っ張って止めに掛かる。
しかしそこはマッシュだった。
中を調べないと、と言いカイエンの止めを振り切って入ってしまう。

慌てて乗り込むカイエンにゆったり乗る私とシャドウ。
インターセプターは少々迷った後、主人が乗るのならといった感じに乗ってきた。

今にも発車しそうな列車に乗る時とかって性格出るよね。

「シャドウは止めないんだね」
「この数時間の間であいつに対しての制止は徒労に終わると学んだからな」
「確かに」
「お前も言っても聞かない所があるみたいだが?」
「……確かに」

何で知られてんだろう?

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