顔見知りも徐々に増えてきたけど。試験中に仲良くなるのって難しいと思わない?…私だけ?
第二次試験は料理。
料理は得意なほうだ。
と思っていたら、男の試験官のほうは豚の丸焼きが御所望だった。
それって料理…なんだろうか?
いかにも男の料理って感じ。
「いたぞ!!」
声のするほうへ向かうと…。
そこには私よりも数倍もの大きさの豚が群れをなしていた。
「うわあーーー!!」
そして、無残にも豚の攻撃を受けた人たち。
ご愁傷さま。
先頭の豚たちは空腹だと言わんばかりに食事にありついた。
こういうの見ても驚かない私は、女子としてやばいんだろうか…。
先陣を切っていた連中は無残なありさまで、ここには私一人しか残っていない。
残った豚たちは今度はギラリと私を睨み、突進してきた。
豚っていうよりイノシシに近いのかな。
…イノブタ?
どうでもいい思考を巡らせていると、もうすぐそばまで豚がせまっていた。
ギリギリ…豚の鼻が触れるか触れないかのところで、ジャンプして様子をうかがう。
すると、先頭の豚たちは私の位置めがけて攻撃。
だけど後ろの豚たちは勢いあまって前の豚にぶつかる始末。
たとえて言うなら玉突き事故だ。
かわいそ。
気絶した豚達の中から1頭に絞って、上から1撃をくらわせた。
「…ごめんね」
豚を運んでいると、別の方角から声がした。
「おい、こっちきてみろよ!!豚が気絶してるぜ!!!」
「おおおお!!ホントだ俺達ラッキーーー!!」
声につられてまた一人、また一人、歓喜の声が飛ぶ。
こらこら、戦いなさいよあなた達。
でもま、運も実力のうちかな?
さて、材料は手に入ったし丸焼きにしないと。
皆どうしてるんだろう。
あ…タバコ吸う人はライター持ちか。
すごく原始的なやり方しか思いつかないけど、しょうがない。
平べったい木のクズに、枝を高速回転。
…ああ、ライター買っとけばよかった。
適当に焼いて持って帰ると、見知った人達は皆もう到着してた。
試験官の男は嬉しそうに、皆が持ってきた豚全部を食べきった。
見ていてちょっと気持ち悪い。
だって、たまに、明らかに生焼けなやつがあったし…。
お腹壊さないんだろうか…。
「豚の丸焼き料理審査!!71名が通過!!」
71名ですか。
ふーむ、大変優秀な数字ですね。
確かにあの豚は、額を強く殴打すれば簡単にしとめられますが…
そこを正確に攻撃するには相当の度胸と判断力、身のこなしが要求されます。
あの女性、確かネコと名乗っていましたっけ。
試験官としての役目が終わったあと、私は木の上から観察していた。
彼女の動きはとても素晴らしかった。
豚もあの図体にしてはすごく機敏なのです。
おそらく…。
もう少し早く逃げてしまえば、豚はさっと方向転換していたでしょう。
あと少しでも遅ければ、豚の餌食となっていたでしょう。
完璧なタイミング。
豚にしとめたと思わせた、ほんの僅かなタイミングで彼女はジャンプした。
1次試験の途中にも見せた彼女の一瞬の動き。
彼女は確実に合格圏に入るだろう。
しかし、問題はこれから。
美食ハンター、メンチ。
彼女はかなり手強いですぞ。
今度は女性の試験官が試験するようだ。
「あたしはブハラと違ってカラ党よ!審査もキビシクいくわよー」
厳しくって、やっぱり味ですよね。
そうこなくっちゃ。
「二次試験後半。あたしのメニューは…」
「スシよ!!」
周りがざわつく。
(スシ…?スシとは…?)
(わかるか?)
(いや…)
どうしよう、私知ってるや。
っていうかそこの出身ですけれど。
これって別にズルじゃないよね?
「そして最大のヒント!!スシはスシでもニギリズシしか認めないわよ!」
握り寿司ね…。
皆、目の前にあるものを手当たり次第に触る。
包丁、まな板、そしてご飯…いや酢飯か。
あれ、肝心の魚がない。
さっきみたいに取りに行けってことかな。
皆が悩んでる間に私は外へ出た。
先手必勝ね。
なかなか、いい魚がいなかった。
ていうか川魚って寿司にできるんだっけ…?
まあいいや。
ともかく魚は新鮮さが大事。
急いで戻っていると、前からすごい勢いで団体が来るのが見えた。
あれ、誰か親切な人が教えたのかな。
もしかして…協力プレイが当たり前とか…?
なんとなく、皆に見つかりたくなくて、木の上から移動することにした。
途中で嫌な視線を感じたけど、無視無視。
会場に戻ると、もぬけの空だった。
「あんた、いち早く出てった子ね。スシを知ってるのね♪」
試験官が楽しそうに話しかけてくる。
「ええ、郷土料理なもので」
言いながら、準備にとりかかる。
三枚下ろしにして、切り身にして…。
でも、なんとなくそのまま出すのが怖かった。
衛生的に。
持ってきた枝でまた火をおこす。
そこへ切り身を投入。
サッと火を消す。
握り寿司は…作ったことないけれど、
それらしい形状にして持っていく。
「あんたが第一号ね。どれどれ」
ドキドキ。
「うーん…、ちょっとニギリが甘いけど、魚を炙るって発想はいいわね!!あんた合格!」
え!
合格しちゃったよ!!
「あ、ありがとうございます!」
その後、皆がもどってくるまで彼女は私の故郷であるジャポン料理で盛り上がった。
彼女…メンチは、スキヤキが大好物だとか、スキヤキに使うあの卵がたまらないとか、
飲んだ後のシメにラーメンは最高だとか。
白ご飯を愛してやまないとか。
あ、それから、私が下ろした切り身と骨は、バレると試験にならない(面白くない)からと、
ブハラの口に放り込まれた。
ひとしきり話したメンチは満足したのか、
はたまたお腹が空いているからか、解放してくれた。
暇になった私は、外で時間をつぶすことにした。
木を背に座り、会場のほうを眺める。
…私って、いつも1人ぼっちだな。
試験会場の方からは、男性陣の声とメンチの怒鳴り合いが聞こえてくる。
それすら楽しそうに思えてくる。
皆、一体になって試験を受けてる感じがするのに。
私はどうしてこうなのか。
1人が寂しいと思いつつ、1人のほうが自由で気ままだとも思っている。
「やぁ」
いきなり声をかけられて、正直心臓が飛びはねたかと思った。
完全に背後をとられた。
「なにか用?」
それでも、振り向かずに平静を装って返事をすると、クククと笑い声が聞こえた。
肩がビクってなったの、見られてたんだろうな…。
そう思うと恥ずかしくなって余計に振り向きたくない。
すると、声の主であるヒソカは私の前にある木を背に座った。
つまり私と向き合う形で。
声が一段と近くなる。
「キミはもう試験諦めたのかい?」
そっちこそ。
と返したいのやまやまでグッとこらえる。
ていうか私合格してるし。
「私はもう合格しましたけど?」
皮肉をこめて言うと、少しの沈黙の後に彼はまた笑い出した。
笑い上戸かこの人は。
「むしろあなたのほうこそヤバイんじゃない?」
問いかけると、表面は笑いながらも殺気が膨れ上がった。
「クック…そしたら皆殺しするだけさ。試験官も含めてね」
…うん、聞かなきゃよかった。
「ネコはどうしてハンター試験をうけてるんだい?」
こんな危ない格好したピエロに本当のことなんて言うわけないし。
と内心思いながらも、私は素直に答えることにした。
何故かって?
単純に、話相手が欲しかったんだと思う。
「人を探してるの」
ふうん、と楽しげに答えるヒソカ。
あれ、殺気が鎮まった?
「どんな人だい?」
ヒソカって…人に興味なさそうな感じなのに。
試験はいいのかなぁ?
とりあえず話を続ける。
「わからない」
「?」
探し人は10年前に1度あったっきり。
名前も素性も知らない。
私の村にいきなり現れて、村民を皆殺しにした。
(少し語弊があるけど、そういうことにしておこう)
でも、何故か私のことは殺さなかったんだよね。
そういう私の身の上話を、ヒソカは黙って聞いていた。
「クク…じゃあ、復讐のために探しているんだね」
関係ないはずなのに、何故かヒソカは楽しそうだ。
「いや…それが復讐のためじゃないのよね」
「…?どういうことだい?」
一瞬にしてヒソカから笑みが消える。
なんていうか…。
自分でも変だとは思う。
探してどうしたいってわけじゃなくて。
復讐とかそういうのじゃないんだ。
ただ…。
「ただ、もう一度会いたいだけなの」
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2012.06.11 ヒソカに会ったら死亡フラグw
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