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 色素薄めのハーフアップ、四番隊の隊服を着た女――――喜多こと私は、隊舎を離れたある日、自分の方に向かって何かが飛んでくることを察知した。

「またか…」

 見覚えのある金髪ロング隊長羽織がグルングルン回りながら飛んでくる。えんやこら、といつものように受け止め、治療し、投げ返そうとしたところ、

「待ちィ!」
「ひぎゃあ!」

投擲動作をした手を掴まれ、勢いそのままに転ぶ。備えも何もなしに顔面から地面に突っ込んだ。滅茶苦茶痛い!

「――――っ!〜〜〜〜〜!!!」
「あ…スマン…」

 顔を押さえてのたうち回る私に平子隊長が謝罪する。なら最初から私の手を掴まないで欲しかった。
 顔に回道をかけ、痛みが引いたところでようやく立ち上がる。

「何するんですか!」
「悪かった!でも喜多やって何も投げ返さなくてエエやろ!歩いて帰れるがな!」
「え、平子隊長については投げるまでが儀式だと」
「儀式にすな!」
「儀式どころか四番隊でカウントされてランキング作られてますよ」
「嘘やろ…」

 平子隊長が衝撃を受けた表情になる。ひよ里さんもランキングありますよと言えば、ざまァ、みたいな顔をした。…そういうところが問題なのでは?

「喜多、どこ行くん」
「四番隊舎に帰るところです」
「ほな途中まで一緒に行こうや。俺も五番隊帰るとこやねん」
「ひよ里さんは?」
「エエのエエの、あいつ喜助と書類出しに行く途中やってん」

 なんかひよ里が詫びまくっとるらしいで、と聞いて納得しかなかった。締め切り日はずいぶん昔だったからなあ…。ひよ里さんには申し訳ない。今度ご飯ご馳走しよう。

「でも、意外やったわ。ひよ里、絶対謝らへんと思ったんやけどな」
「…それは、確かに」
「喜助の奴も、仕事部下に回すようになったらしいし」
「それは杜屋ちゃんのお陰です」

 首を傾げた平子隊長に、先日の出来事を説明する。といっても私も詳細は知らず、『杜屋サンにお叱りを受けて、気づいたところがあるっス』としか聞いていない。温厚(感情鈍し)の彼女を怒らせるなんて兄はクソッタレである。詫び菓子購入のためにと杜屋ちゃんの好物を聞かれたが、無事渡せたのだろうか。

 だが、流石兄に似ている男だ。納得した表情で成程、と呟く。

「ようやっと顔色伺うんやめれたってとこやな」
「はい?」
「初日に言うたん。『部下の顔色伺ったらあかん』って」

 思わず半目になる。お兄ちゃんが本気モードで十二番隊を引っ掻き回すようになったの、こいつのせいか。私が土下座ムーブ決めるようになったのも間接的にはこいつのせいか。

「お陰で私が後始末に回ってますけどね」
「そこは…何とか」
「出来たらとっくの昔にしています」
「せやな」

 クックッと笑う彼に私はため息を吐く。全く、困った兄である。…でも、ひよ里さんはじめ十二番隊の人達も、平子隊長も、杜屋ちゃんも、みんなお兄ちゃんのことを気にかけてくれる。それはとても、ありがたい。

「いつもお兄ちゃんのこと、ありがとうございます」
「礼言われるようなことはしてへん」
「仲良くしてくれて嬉しいです」
「…お兄ちゃん大好きやな」
「まあ、頼りにはしています。頭脳とか身体能力とかは圧倒的にあちらが上です。生活能力はドブですが」
「喜助に似とるようで喜多の方が圧倒的にしっかりしとるわ。始末書女王やけど」
「平子隊長、そこは言っちゃダメです」

 平子隊長が爆笑する。そんな面白いことを言った自覚は無い。散々笑って、彼は言った。

「喜多、その『平子隊長』は止めや」
「じゃあ何と呼ぶんですか?」
「シンジ。ひよ里サン言うみたいに呼んでみい」
「はあ、シンジさん」
「良い子や」

 いいのか?と隣の彼を見上げれば、満足そうな顔が見える。…満足そうならいいか。今日からシンジさんだ。

 四番隊舎の門に到着する。何だかんだ、シンジさんには送ってもらった形もといサボりの片棒を担がされた形になる。ひどい。

「ほなまたな」
「はい、また」

 ひらひらと手を振って離れていく後姿を眺める。揺れる金髪は太陽の光を反射させて、きらきらと輝いて見える。

「………ふふっ」

 胡散臭いけど、まあ、悪い人ではない。治療のついでにお喋りをするのも、悪くない。

 少し上昇した気分をそのままに、ただいまー、と四番隊の敷地を踏んだ。




通例は修正されました