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 スパナたちと不本意に再会し、私がふて寝してから数日。

 ユニ達が合流し、屋敷はミルフィオーレよろしく賑やかになった。人数が急に増えたので私は忙しくなったものの、ユニだって家事はできるし、皆が特訓や開発の合間に手伝いを申し出てくれるのでうまく生活は回っている。良いことだ。

 入江正一は学校が忙しいのでこちらに顔は出していない。おかげで私の精神は凪いでいて、今だって鼻歌交じりに洗濯物を干して取り込み、畳むことが出来ている。

【日本の洗剤もいい匂いがしていいな、帰り際に買い込んでいきたい】

 本日二日目の代理戦争については、幸先良くない。昨日、一日目の時点ですでに三人脱落した。重傷者こそ出なかったものの、ヴェルデチームの限りなく現実に近い幻覚は戦闘力としてはかなりの脅威であり、衝撃的だった。どのくらいかというと、目撃したスパナが昨晩からずっと部屋にこもって解析をしている程度だ。準備した食事には手をつけているし、風呂も使用した形跡があるので人並みの生活は保っているようだが、今日中に外に出てこなかったら明日様子を見に行った方がいいかもしれない。

「みなさん、お待ちしてました」

 窓の外からユニの声と、来客複数人の声がする。リボーンさん率いるボンゴレが来たのだ。白蘭が勝手に同盟を結んできた、とγさんが怒っていたが、ユニの希望を通してくれた結果なので、不完全燃焼に終わっている。…妹よ、そろそろγさんとちゃんとお話をした方がいいと思うの。

「ユノ!ブルーベルが洗濯物畳む!」
「ブルーベル!抜け駆けするな!――――お嬢、やりますよ!」
「あら、ありがとう」

 部屋に駆け込んできたちびっこ二人が私の両隣を陣取って、私の手元から洗濯物を奪い取る。あれま、と新しい洗濯物を掴もうとした手は遮られた。

「何故…?!」
「お嬢、ボンゴレたちに顔を見せなくていいんすか?」
「え、いや、だって、知らない人だし…二人こそいいの?」
「だってもうちょっかい出してきたもん!」

 ちょっかいかけたら満足するのか…とは声に出さない。やんのやんのと騒ぎながらも手は動くあたり、二人はとても優秀だ。将来有望株。

 三人でせっせと洗濯物をたたみ、仕舞うだけ仕舞って仲良く部屋を出たところで、金髪のお兄さんに遭遇する。

「お嬢、行かなくていいのか?ボンゴレと縁はあったんだろ?」

 そう言うのはγさんだ。私の希望で敬語を使わないでもらっている。『失礼では?!』『ですが…!』などと言いつつ、最終的には何だかんだお願いを聞いてくれるいいお兄ちゃんだ。

「私のこと、覚えてないでしょうから」

 そう言えば、何が面白いのかニヤニヤと笑う。

「ま、来てみろよ」

 背を押されるがままに移動すると、ユニが嬉しそうに手を振り、数多の視線がグサグサと突き刺さり、その中でも中折れハットが似合う男はイケメンに笑う。記憶に違わぬ姿、アルコバレーノのリボーンさん。

「やっと顔出しやがったな、ユノ」
「何故ご存じで…?」
「ボンゴレ側で最初に入江が泣きついたのはオレだからな」
「………」

 あの男め…と舌打ちしたくなる気持ちを抑え、努めて冷静に保つ。そんな私の感情を理解してか、γさんが「入江とスパナはもう部屋に引きこもって研究漬けだ」と教えてくれる。正直ちょっと落ち着いたので、そのまま自己紹介を簡単に済ます。

「ユノです。ボンゴレの皆さん、よろしくお願いします」
「ああ!ユニのお姉さん!」

 ボンゴレたちが挨拶をしてくれた。沢田さん、山本さん、獄寺さん。記憶の中の彼らと同じ姿かたちをしている。

「確か、大空のアルコバレーノの四代目!」
「白蘭に連れていかれそうになったのを入江が必死に阻止してたな」

 何故そんなにも覚えているのだ、と震えていると、沢田さんが曖昧だったんだけどね、説明した。

「それが最近はっきり思い出せるようになって。リボーンとか雲雀さんとかスクアーロもそうらしいから、多分記憶を持っている人は皆同じじゃないかな」
「ええ…」

 本気で困惑する私に、これから挨拶回りが忙しいな、とγさんが肘で小突いてくる。辛い。リボーンさんが肩に飛び乗り、ふっと笑う。面白がられている…どうして…。

「近々ヴェルデ達と会話する日も近いかもな。また奴らがここを狙ってくる可能性は低くねえはずだ」
「はい、おじさま…それは避けられません――――」

『バトル開始1分前です』

 突如鳴り響く音声に笑いも和やかさも一転、戦闘態勢に変わった。

「ユノはどうする?」
「昨日と同じようにユニの傍にいます」
「ん♪」

 今日のボスウォッチホルダーは白蘭なので、自分の居場所を彼に告げる。彼は満足したように私の頭をポンポンしてから、私に耳打つ。

「ゴメンネ、僕はユノの願いを叶えてあげられない」
「!」
「本当は新しく七人選ばれるんだろう?だからユニを自由にして、君がアルコバレーノになるつもり。でも、あの子の願いはそうじゃない。だから、ゴメンネ」

 そう言って離れようとした彼の手首を掴む。

「謝る必要なんてないのよ。あくまでもボスはユニ。それに、妹を大切にしてくれて、私とても嬉しいわ。ありがとう」

 彼は驚いたようにこちらを見た後、屈託なく穏やかにほほ笑んだ。




 結局、チームは敗退した。八人目のアルコバレーノ、バミューダと復讐者たちの参戦が告げられ、状況は混乱している。私の頭も混乱しているが、敗退したのでそのゴタゴタに直接巻き込まれることは無いということは幸いか。怪我人ばかりなのでありがたい部分…だよね?

 私たちの状況――――ユニの願いは叶えられ、白蘭はズタボロだが満足そうな笑顔を見せている。入江正一が必死になって応急処置をしているが、いくら若返っても彼の白蘭に振り回される様子は変わらないようだ。デイジーも半泣きで治療をするので、私はデイジーの涙を拭ってやりつつ、その横で救急箱から包帯を取り出すのが仕事。先日ジッリョネロ組からレクチャーを受けたので、包帯の巻き方については完璧である。

 そんなこんなで治療を終え、風呂も済ませて部屋への道を辿っている。手を洗っても消毒液の匂いが残る程度には怪我人だらけで、明日からしばらく生活が大変だろう。

 明日から、それに続けて過るのは先ほどの新情報。

――――バミューダ…分からない。"見て"ないんだもの…。

 お母様に代理戦争の話をしたその日以降、私は眠っても"見る"ことが無くなった。否、"見る"ことはあっても、それが記憶に残らない。何かあった――――そう感じてはいるが、思い描こうとすれば蘇るのは和服の男。

『首を突っ込むのは止めなよ。自由でいていいんだから』

 彼はいつも私の左手首を掴み、意識を突き放す。その彼の顔は悲しそうで、見ているこちらが涙を流して目覚めることは多い。ユニがチェッカーフェイスに心を抉られているなら、私は和服の男に泣かされている。姉妹揃って悪夢続きだ。

 部屋に戻り、寝支度を整えてベッドへもぐりこむ。

 "見る"ことはできなくとも思考はできるので、ひたすら頭を回転させ続けているのだが、分からないものは分からない。

「中途半端ってのは不便だわ」

 ため息をついてすべてを放棄する。そうして目を閉じれば、あっという間に夢の中――――

「リボーンおじさま達がいらしています。アルコバレーノについての重要な話をするのですが、ユノおねえさまにも聞く権利があると判断しました。来ていただけますか?」
「………五分で行くから」

 夢は暫くお預けのようだ。呼びに来たユニに集合場所を聞き、身支度を整えて向かった。





出来そこないの溜息