×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



 そんなこんなで時は過ぎ、ヲノミチさんに代理戦争の説明を受けてから日本へやってきた。ユニは少し到着が遅れるそうだ。白蘭達が先行組なのでブルーベルに引っ張られるまま私は彼らと一緒に来て、屋敷で食料調達やら何やらを担当している。

 それについてはユニも納得のいく状況らしい。どうも、ユニがブラックスペルであるなら、私はホワイトスペルにいなくてはバランスが取れないのだとか。彼らは私の記憶が無いのにどうしてこんなことになっているのだろう…。

 今はちょうど昼食の片付けが終わって、のんびりとした時間だ。

「ユノ、マシマロ食べる?」
「頂きます。紅茶淹れますね」
「ブルーベル、ジュースがいっいー!」
「糖分の摂りすぎは健康を害しますよ」
「むう…お茶」
「はい、良い子です」

 マシュマロだけでは飽きるので、クッキーなども準備していると、桔梗さんが先に準備できたお菓子を持って行ってくれる。彼はどうやら紳士らしく、こうして手伝ってくれることも多い上に面倒見だって良い。白蘭が悪事を働かない状況ならば、彼もここまで善人だとは知らなかった。

 紅茶を淹れ終え、彼の様子を見てか手伝いを申し出たザクロさんと二人で紅茶を運ぶ。

 支度が終われば、皆で一つのテーブルを囲んでお茶会が始まる。

「やっぱりマシマロは最高だよ」
「ブルーベルも食べる!」
「バーロー、クッキーも食え」
「ぼぼっ…僕、チョコクッキー…」
「はい、どうぞ」

 不思議なメンバーだ。白蘭が集めたメンバー故に個性豊かで賑やかだが、私がそこに紛れているというのが信じられない。

 ぼんやりと彼らを眺めていると、視線に気づいたらしい桔梗さんがハハン、と笑う。

「ユノ様はどうして自分がここに、と不思議に思いますか?」
「そりゃあ、もちろん」
「そうでしょうね。白蘭様以外は、私含めて同じように不思議に思ってはいます。ですが、あなたが一緒にいて嫌な感じはありません。やはり、記憶はなくともあなたはミルフィオーレに属していたらしいですし、白蘭様のホワイトスペルだったことも何となくですが納得できるのですよ」

 そうなのか。よく分からない。一人うんうんと考えていると、白蘭が私の口にマシュマロを突っ込みながら言う。

「そうそう、もう暫くしたら来客があるんだ。二人分追加してもらっていいかな?」

 頷いて立ち上がろうとしたところを桔梗さんが制した。どうやら淹れてきてくれるらしい。次々と口に突っ込まれるマシュマロを味わいながら、おやつを食べて満足したらしいブルーベルに髪をされるがままに過ごす。

「ユノ、髪留め持ってないの?」
「髪ゴムくらいならありますよ」
「そうじゃなくてかわいいやつ!」
「無いですね」
「えー」

 ぶつくさ言いつつ、自分の手持ちから髪留めを持ってきて、私のヘアスタイルがルーズサイドテールになった。

「ユニのマークと似てるからこれあげる!」
「え、でも」
「いいの!」

 ほら見て、と手鏡を差し出される。星の形をした飾りが横に見えた。確かに、我が家の痣に似ている形だ。…かわいいな。

「ありがとう」
「毎日してね!」
「うん」

 結構気に入った。これからはこの髪型で過ごそう。そう思って返事をしたら、ブルーベルに満面の笑みで抱き着かれた。最近の私はモテ期なんだろうか。

 しょうもないことを考えていると、チャイムが鳴る。来客だ。私が席を立とうとしたところ、白蘭にまたマシュマロを突っ込まれ、おとなしく座り続ける。

「ブルーベルとデイジーはあっちね。僕とユノは引き続きここ」
「え、私も?」
「何言ってるのさ、君だってアルコバレーノだったんだから、話の中心になってもらうよ」
「ええ…まがい物に何をさせるの…」
「まあ、通訳だと思ってさ」

 日本語完璧なのユノだけだし、とまたマシュマロが口に突っ込まれそうになるのを手で防ぐ。流石にもういらない。紅茶のカップに口をつける。柑橘系の香りが落ち着く。

「白蘭様、お連れしました」
「ん、いらっしゃーい」
「うわあああああ………あれ?」
「………」

 嫌な予感がする。桔梗さん、白蘭の声に続き、なんだかとても聞き覚えのある声を聞いた気がするのだが。もっと言えば、最近会ったのではないか。そう思いながらもカップに向けていた視線を上げれば案の定。

「ユノ!」
「いっ、入江…正一」

 複雑な心境から苦い顔をしてしまった。私の表情を見て苦笑した彼の背後から、「俺もいる」とスパナが顔を出してきたのは少しだけ面白い。近寄ってきたスパナがこちらに手を差し出してくる。

「久しぶり、宮間」
「?!」
「一昨日頭をぶつけたら思い出した」

 何でも、記憶にもやがかかっていた部分を工具箱の打撃が晴らしてくれたらしい。そこから宮間柚乃というホワイトスペルの女性やら何やら芋づる式に引っ張り出した結果、私の存在には納得いっているらしい。

「正一に言われたときは分からなかったけれど、今は分かる」

 未来で食べた弁当は美味かった、特に煮物が。そう言われて、私は頭を抱える。白蘭は彼らの席を私たちと同じテーブルに指し示しながら言った。

「ヴァリアーでもスクアーロくらいは思い出し始めたんじゃないかな?対面したことあるのは彼くらいなもんでしょ?」
「あああああああ…」

――――どうしよう、どんどん私を証明する人間が増えていく…!

 ケタケタ笑うな。あとそこの日本人、嬉しそうな顔をするんじゃない!


 閑話休題。


「さて、ユノの、代理戦争に対する見解を聞きたいね。君だってアルコバレーノの娘、何かしら思うところはあるだろう?」

 全員が席に着き、紅茶も行き渡ったところで、白蘭はそう言った。入江正一とスパナの方を向けば、彼らも事情は知っていると頷く。成程、彼らは非戦闘員であれどれっきとした戦力として呼ばれたわけだ。

 皆の視線を浴びながら、私は口を開く。

「恐らく――――この代理戦争というのは、次のアルコバレーノを選定するためのものなの」

 アルコバレーノを一人、解放するということが真実かどうかは分からない。だが、最強の赤ん坊の連れてくる代理が猛者であることは間違いないし、彼らを戦わせて頂点を取らせるのだから、次に据えるにはちょうどいい…と説明をすれば、ふむ、と違うテーブルで桔梗が頷くのが見えた。

 彼が分かってくれているなら、隣でプスプスと湯気を立てているブルーベルや首をかしげるデイジーには後でちゃんとした説明がなされるだろう。分かりにくくて申し訳ない。

「あなたたちには失礼なことを言うけれど………単体の実力から判断するなら、沢田綱吉でしょう」

 彼は強い。記憶の中でも強いのに、それがそのまま現代にいるのだ。

「ん?でも綱吉クンはリボーンの代理だから、空く席は晴じゃないの?」
「問題はそこなの。私がアルコバレーノの解放に疑問があるのはそのせいね」

 正直、私はすべてのアルコバレーノの入れ替えをするつもりなのだと思っている――――それについては言わない。これから七人も新しい人柱が出来るだなんて、そんなことは彼らに言えた話ではないし、ここにいる誰からもそのようになってほしくはなかった。

 思考を切り替え、続きを話す。

「でも、沢田綱吉はダメよ。大空の握る権力は大きい…アルコバレーノのボスとボンゴレのボスは規模を考えれば兼任できるほど軽いものではないし、二つを一人にしたらトゥリニセッテ維持の炎としては不足してしまうわ」

 そうである以上次の大空のアルコバレーノは誰が担うべきか。

「私は未来で四代目をしたのよ?…きっと、そのために今ここにいる」

 白蘭の双眸が私を見つめる。

「ユノはそれでいいの?」
「はい」

 これが私のやるべきことだから。彼の目を見つめ返してそう返答した時、私たちのテーブルが音を立てて揺れる。

 入江正一が、両手でテーブルを叩いて立ち上がったのだ。彼はこちらを睨みつけ、その迫力に私は思わず慄く。

「な、なに?」
「絶対に早死になんてさせない!」

――――は?

 プツン、と耳の奥で音がした。

――――お前、また私の邪魔をするのか?

 身体を熱が駆け巡る。ドン、とテーブルを手で叩きつけて立ち上がった。

「私はそれでいいって言ってるの!第一、あなた今の私についてどれだけ知っているっていうのよ!何も知らないくせに、私の命の使い道について口出さないで頂戴!」
「ああ!何も知らないよ!でも!一目見てユノはかわいいって思った!これは僕の知る事実だ!」

 ………………。

「……あ」

 静まった部屋に彼の呆けた声が響く。私はというと。

「だったらやってみせれば?!――――とにかく、私は何としてもユニを助けるんだから!」

 そんな捨て台詞を吐いて部屋を飛び出した。白蘭の笑い声が聞こえてきたが、そんな場合ではない。

――――あ〜やだやだやだ!なんか心なしか顔が熱い!身体中を何かが駆け巡って暴れたい衝動が凄い!

 私の部屋に駆け込んで鍵を閉め、靴を脱ぎ捨てベッドに飛び込み枕に顔を押し付ける。

【バカバカバーカ!私は!大空のアルコバレーノになるんだい!】

 キーッ!と枕に向けて母国語で叫びたいだけ叫んで、結局ふて寝した。



 一方、残された男――――入江。

「あー…言っちゃった…」

 すとん、と落ちるように椅子に座る。正面では白蘭サンが爆笑しているし、向こう側では桔梗たち真6弔花が各々の反応を見せているが、どう見たって僕が恥ずかしくなるだけだ。

 そうだ、とスパナが言葉を発する。

「白蘭。言われて日本に予定より早く来たが、ホテルはどうしたらいい」
「あ、ここ泊まりなよ。部屋余ってるんだ」

 暢気な会話が交わされる傍ら、僕は羞恥に頭を抱えた。





ふたりの舞台がはじまる