×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




 途中で寄り道やら食事休憩をはさみ、白蘭サンに連れていかれた先はツナ君の家だった。先日もお邪魔したが、今回はやたらと黒い服装の人たちがいること、その人たちがどう見てもカタギではないということが違う点。…どうしてそんな人たちに紛れて僕は座っているんだろう。隣には白蘭サンが座っているので怖いことは無いのだが、複雑なことこの上ない。

 目の前では、リボーンチーム…ツナ君が主導する共同戦線が結成されたところだ。七つのチームの戦闘力を結集して、復讐者たちに立ち向かうのは良い考えだと思う。

 メインの話題が終了する。今だよ、と白蘭サンに小突かれて、僕は手を挙げた。

 アルコバレーノの救命について、僕が考えた内容を話す。もちろん、未来で渡したラペルピンについても。実際の効果は未来の僕が確認済みで、非戦闘員の宮間さん――――ユノが修羅開匣状態ブルーベルからの攻撃を凌ぎ切る程度の出力が保証される。彼女の元々の発炎量があるからこその結果なので、それよりも膨大なエネルギーを持つおしゃぶりの中身なら莫大な出力となるはずだ。

「あの石、何かあるとは思っていたみてえだが、まさかそんな効果があったとはな…」
「倒壊した不動産屋を氷漬けにしたアレか」

 スクアーロさんがそう呟いた。未来の彼は宮間さんのラペルピンを見た時点であの石に気付いていたらしい。実際の出力を見た獄寺くんも納得の表情だ。

「でも、炎の器については全く考えつかなくて…」

 タルボさんという人が考えてくれているそうだから、それに組み込んでもらえたらいいかもしれない。

 隣の白蘭サンの携帯電話が鳴る。相手はγらしい。

「正チャン。今、γクンにお願いして持ってきてもらってるんだけど、誰に渡せばいい?」
「僕にお願いします」
「みんな仕事が早すぎない?!」

 ツナ君が驚いているが、元々彼の仕事は早いし、事情をかいつまんで聞いたγだって死ぬ気で動いている。僕にとってはあまり驚くことでもない。

 準備は整った。情報も整理できた。やることが見えてきた。躊躇う必要はない。

「ツナ君、タルボさんという方の居場所を教えてほしい。僕が直接お伺いする」

 もちろんだよ!とツナ君から所在をメモした紙を手渡される。日本国内とは聞いていたが意外と近くて助かった。γにも行先を伝え、いつの間にかディーノさんが準備してくれた車に飛び乗ってまた移動。

 パソコンを開く。石について、送られてきた現物のデータを分析すれば、記憶にあるよりも大きい。研究室にあった石とは違うのだろう。分割できそうだ。

 着きましたよ、と運転手に声をかけられて車を降りた。建物に入れば、聞いていた通りのおじいさんが作業をしながらこちらを見た。

「君が入江という男か。待っておったぞ」
「初めまして」

 簡単に自己紹介を済ませて、本題へ入る。ここで合流したγから受け取った例の石を彼に見せながら説明していく。

「ほう、話に聞いたことはあったが、本当に存在したとはな」
「使えそうですか?」
「勿論。これなら種火が小さくとも何とかなるじゃろう」

 彼の笑顔に安堵する。それは隣にいるγも同じらしい。

「あとは任せて、早く並盛に戻るといい」
「よろしくお願いします!」

 知る限りの情報を伝えた。あとは、ツナ君たちが勝てるよう祈るしかない。




 ユノが目を開けると、そこは真っ暗な世界だった。微妙な浮遊感は、"見て"いる状況に似ているからだろう。

「ユノ、よく来た」

 突如、視界が明るくなって思わず瞼を閉じる。刺激に何とか慣れてきて、少しずつ目を開けば、スポットライトに照らされた椅子に座る男の姿。

「チェッカーフェイス…!」
「まあ座りたまえ。危害を加える気はない」

 そう言われ、しぶしぶ席に着いた。…最後に着ていた記憶のある服装なのでスカートがしわにならないよう丁寧に座る。

「ふふ、セピア君によく似ている」
「セピア?」
「君の先祖だよ。私と同じ種族だった」
「………?」

 彼の言葉で眉間に皺が寄った。

 実を言うと、ご先祖のことは私たち――――母も含め、あまり詳しく知らない。未来で記憶を受け継いだ時も、ご先祖についての情報はほとんど無かった。

 しかし、彼にとって本題はそこではないらしい。

「さて、『運命の子』。――――本当ならばすでに消え去っているイレギュラー」

 話題が転換される。チェッカーフェイスから、張り詰めた空気が支配する。

「何故君は首を突っ込む?」
「それが私の役目だと思ったからです」

 間髪入れずに切り返す。

「ボンゴレリングとおしゃぶりの重複は人体上無理がある――――私がここにいる理由は、そういうことなのでしょう?」
「確かにその通りだ」

 コツン、と杖をつき直して彼は立ち上がる。こちらへ歩み寄りながら口を開く。

「セピア君の子孫、それはすなわち、常人ならざる炎を扱えるということ」
「?」
「君を選ぶこと、それはトゥリニセッテ維持の上でこの上ない最良の選択だ」

 ちょっと分からない内容を言われたが、それよりも彼の口の端が歪んだことに意識が行く。

――――あれは、恐れか?

 近付いた彼の手が頬に触れる。

「だが、未来でユニが運命を果たし、ユノが役目と共に消え、私は本当にこの地球上でたった一人になってしまった。その時の底知れぬ闇が、お前には分からないか?」
「――――っ…」

 分かる。分かってしまう。

 私も、みんなと違って一人だったから。ユノは、どうやっても消える存在だったから。あの世界で生きるためではなく、死ぬために戦っていたのは私だけだった。

「痣がなくとも、お前は私と同じ種族だ。そして、セピア君の家系で唯一、まだ呪いを受け取っていない。私はお前に生きていてもらいたい。"運命"ではなく、"普通"にな」

 未来の私は、いい思い出を胸に死ぬことが出来た。私は幸せだった。――――それは、孤独に苛まれる前に役目を終えたから言えることだ。
 
 役目を終えられなかったら、私はきっと、彼と同じように恐れを抱いて生きていただろう。

 でも、私が生きることで恐れを失うのはチェッカーフェイスだけだ。等価交換ではない。

「ユニがいない世界で、私はどうやって生きていくというの」

 まるで妹を犠牲に生き残ったかのような錯覚を得る生を、どうやって生き抜けというのだ。

「私は、」
『ユノ!起きて!』

 意識が引きずられ、視界が切り替わる。あのスポットライトが当たる世界ではなく、日本で借りている屋敷の自室。何故か入江正一の顔が視界に見える…。え?

「――――入江、っ?!今何時、」
「午後二時」
「寝すぎた…?!」

 慌てて跳ね起きたところを止められる。よく見れば私にかけられていたらしいものは彼の制服の上着だし、まさかずっとそばにいたのかと錯覚するような距離感だし、一体どうなっているのだ。いや、大事なのはそんなことじゃなくて、えっと、えっと!

「落ち着きなよ。はいこれ、ユニが準備してくれた服。ご飯は桔梗さんに頼んでサンドイッチにしてもらったから」
「え、あ…うん」
「先に食べる?それとも着替える?着替えるなら廊下で待つけど」
「………食べる」
「じゃあ、食べながら話を聞いてくれる?」
「…はい」

 サンドイッチを手渡され、包装を剥いて一口食べる。…美味しい。中身はサーモンとカマンベールチーズ。わりかし好物。

 私が食べ始めたのを見て、彼は話し始めた。

 ボンゴレ主導で、打倒バミューダを掲げた共同戦線を張ったこと。
 沢田綱吉はアルコバレーノを死なせないことを念頭に動いていること。
 タルボという名の彫金師に、アルコバレーノという人柱に代わる器を作ってもらっていること。

「その器に、未来で使った炎を増幅させる石を取り入れてもらった。あれがあれば炎エネルギーの自然減少を少しは抑えることが出来るし、その器が老朽化して取り換えることになっても、移し替える際に増幅させあって取り返しがつくと思う」
「………!」

 目を見張って、彼を見た。

 彼は、あの時と同じように生きるために戦っている。

「ほら、早く。ユニ達みんなが待ってる」
「………本当に、ユニ達アルコバレーノは助かる?」
「その為に、僕も、皆も最善を尽くしてる。少なくとも、僕は未来のような半端をしたつもりはない」

 できることは少なかったけれどね、と苦笑交じりに付け足された。それでも、彼はみんながいる未来を手繰り寄せるためにやれることをやったのだ。

 相談したってしょうがない、そう思っていたが、それは私がひたすらに後ろ向きだっただけ――――あの時と同じように死ぬために戦おうとしていただけで。

 彼の眼鏡の奥にある瞳を見る。

「分かった」

 そこにある勇気に、私は希望を見たのだと思う。




 午後三時に始まった戦いで、全ての決着がついた。

 簡単に言うと、優勝したリボーンチームの提案を、チェッカーフェイスは承認。トゥリニセッテは維持され、人柱の呪いは解かれた。

 あの炎エネルギーを増幅させる石をつけたタルボさん作成の器に、バミューダ達復讐者が夜の炎を灯し続けることで、トゥリニセッテ維持に必要な七属性の炎を維持する。器の定期的な交換を必要とするだろうが、石をつけたおかげで難易度は下がっているはずだとも説明があった。私の隣で、入江正一が密かにガッツポーズをしていて、ちょっと面白かったのは秘密。

 夜の炎については揉めることなく未来永劫における供給が決まった。すでに死者と同義となった復讐者達にとって、目的が果たされるのであればそれで良いというのだという。

 トゥリニセッテの健在――――ユニが太鼓判を押した未来がある故に、チェッカーフェイスも必要以上の反対はしなかった。むしろ、積極的になった。

 そうだろう。いわゆる同族のユニと私が生き続けることが決まり、彼の直近における恐れは解消されるのだから。また、ベターな方法を採用したいという彼の願いも叶う。

 なんだかんだ、一番救われたのは彼かもしれない。

 

 あれから暫く。私は並盛病院の屋上で空を見上げている。隣には、今日は日曜だからと白蘭の見舞いに来た入江正一。

 特に会話もない、静かな時間。

 髪を揺らす風の音を聞きながら、ふと考える。

 白蘭達の退院が決まり、イタリアへの帰国のめども立った。あの屋敷での、奇妙な共同生活も終わりが近いし、何より私はジッリョネロではないので、普通の生活が待っている。…生活、か。

「わたしは、どうやって生きていけばいいんだろう…」

 思わずぽつりと零した言葉に、隣の男が笑う。

「君はこれから、普通の女の子になるんだ」

 そう言った彼の顔は、本当に幸せそうな笑顔だ。記憶に残る、あの苦しそうな顔ではない。

――――普通の、女の子…。

 記憶の私は、運命の子だった。どうしたら、普通なんだろう。

「………ちょっと、考える。未来でも、現在でも、本当にありがとう」

 右手を差し出す。私より大きい手が、その手をしっかりと握ってくれる。少し硬くて、温かい。母とは違う、それでも頼もしい手。

 嬉しくて、穏やかな気持ちで笑う。

「また会いましょう、入江正一」

 これは、未来を生きる私の意思だ。





汗と勇気と希望でつくった意思