×
「#甘々」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



 先日、私は入江君と共に日本へ戻ってきた。所属が日本支部のメローネ基地となったからだ。
 ホワイトスペルの非戦闘員として、私は朝から晩まで書類を捌いて生活している。右手に「何だかよくわからねえけど上質なリングがあるのにどうして戦わねえんだ!」と転属してしばらくはちょっかいを出されまくったが、基地のトップになった入江君が一言言ってくれたのかここ最近はめっきりなくなった。おかげで仕事がしやすくなった。
 その入江君は、研究をしたり、基地内にいる別の部隊との兼ね合いで胃痛になったり、オンラインで会議に出席したり、白蘭さんに振り回されたり、ボンゴレとの全面戦争の準備で演説したりなど忙しく生活している。彼の研究内容は究極の権力トゥリニセッテや10年バズーカ、いわゆるタイムトラベルについて。
 ……正直、入江君が白蘭を裏切るために動いていることは知っている。しかし、彼は私に何も言ってこないから、私も何かをすることはしていない。まあ、そんなことをすれば首が飛ぶので、できないと言った方が正しいのだが。

「……」

 今日も酒瓶の補充要請が来ている。ブラックスペル第3アフェランドラ隊だ。……彼ら、毎日飲みすぎではなかろうか。休肝日は設けてないのだろうか。いや、私と一緒で欧州人だし耐性はそこそこあるにしても、やっぱり毎日の飲酒って良くないと思うの。
 ちょうど匣の補充申請の書類に不備があったし(入江君、許可を出すのはいいんだけど書類の不備に気付いてほしかったよ…)、この酒注文の本数もちょっと異常だし(3桁ってどう見ても誤植だよな…)、なんかまたビリヤード台を破壊したらしい(なんでそうなるの???)のでどうみても怖そうな相手だけどちょっとお話に行かねばなるまい。

「宮間さん、どちらへ」
「第3部隊の隊長さんと、えっと、γ隊長と書類の不備についてお話をしに行ってきます」
「ついていきましょうか?」
「いえ、万一の時はリングがありますから」

 同じ事務職の人が声をかけてくれるが、邪魔なので要らない…とは言えず、自分の身は自分で守れるからと言って事務室を出た。
 廊下を歩く。ずいぶん昔に"見た"景色と全く同じだ。白い制服、黒い制服の人がいて、私は白い制服を着ている。
  
 左手首の腕時計を見る。見知らぬ男に貰ったそれは、今日も時を刻んでいる。

「……」

 そのまま歩き続けてみたが、さすがに誰かに引きずり込まれることも、和服を見ることも無かった。そうして、アフェランドラ隊の談話室へ到着する。

「こんにちはー…」

 おそるおそるのぞき込むと、そこには珍しく人が一人しかいなかった。
 金髪の男性、確か、彼がγではなかったか。

「誰だ――――っ、姫…?!」
「え?うわあああっ」

 光の速さで飛んで来られたので思わず後ずさる。殺意と電気がバチバチと弾けて痛い。おそるおそる顔をあげると、驚き、悲しみ、戸惑う表情が見えた。…この顔、知っている。データとしてではなく、ユニに"見た"、金髪の青年ではなかろうか。

「……ああ、悪い。人違いだった」
「姫って…ユニ、さんのことですか?」
「顔が良く似ていたから見間違えた。………忘れてくれ」

 ……ああ、この人は、妹をとても大事にしてくれているんだ。飛び立っていまだ帰らぬ、身体だけになってしまった妹のことを、ずっと待ってくれているのだ。
 行動と表情で何となく感じた内容が嬉しくて、思わず笑みを浮かべる。

「忘れません。ユニさん、きっと喜びますから」
「あ…?」
「離れていても、自分の大切な人を思い続ける労力は大変なものです。そうされて、喜ばない人はいませんよ」
「お前、ホワイトのくせに何を知ってる」
「すみません、まだひよっ子なので何も。正直、ホワイトとブラックが存在する必要もいまいち分かりませんし。同じファミリーなのに…とは思いますが、おそらくそうあることのできない深い溝があるのでしょう。興味はありませんが」
「……」
「そういえば、お話があって来たんです。書類の不備、直していただけますか?」

 私に対してではなくなったが殺気バラマキまくり、よく見れば怪我人のγ隊長はさらに不機嫌になることもなく、おとなしく書類を訂正してくれた。そして、じゃあなと背を向けられたので、休肝日とビリヤード台の話はしなかった。私もそれでいいと思った。

 彼はこの現状に途轍もなく不満なのだ。ユニと離れ、お母様やユニといたファミリーがなくなり、白蘭にすべてを支配されたこの現状が。そんな彼から、ストレスのはけ口を奪うのは致命的なダメージになるし、ユニのことを大切にしてくれている恩は返したかった。
 まあ、長期的に見れば身体には良くないのだが、それでもユニはもう少しで帰ってくるから、それまではいいかなと思う。
 本当に、もう少しだから。


 夜、緊急通信で叩き起こされる。

「う…シナチク…?」
『何言ってるんだよ柚乃、起きるんだよ!』

 リモコンに手を伸ばす。部屋が明るくなる。左腕、腕時計とはずらして着けた個人モニタの通信画面に映し出されたのは立派なアフロヘア、麗しきご尊顔――――死茎隊、妖花のアイリス。

「あい…アイリスさん?おそようございます…?」
『真夜中に叩き起こして悪いね、侵入者だよ』
「――――はい?!何で?ボンゴレアジトを潰すって話では?」
『それが隙をついて侵入されたみたいでね』

 ほら、画面切ってやるから着替えな。その言葉のとおり通信はつないだまま、映像だけオフにしてもらったのでどうしようもない寝間着から制服に着替える。

『ちょっと失態が重なりすぎたって感じ?まあそんなもんだから、基地の通信システムは落ちちまったんだよ』

 ああ、だから個人通信なのか、とストッキングを履きながら答える。ひざ丈のタイトスカートに手を伸ばす。

「状況はそこそこ分かりました。で、私はどうしたらよいでしょう」
『司令室に向かいな。そこで入江が何か言ってくれるだろ』
「わかりました。ありがとうございます」
『迎えに行こうか?』
「…リングがあるから大丈夫です」

 ジャケットを着て、ジッパーを上まで上げる。

『アンタのそれ、見たことないけど、一体どうだっていうんだい?』
「内緒です」

 笑顔で通信を切った。



 さて、どうしたものか。廊下に出たはいいものの、私に戦闘など期待してほしくはないし、気配を消して移動など論外である。結局、無能である。

 運が悪かったら氷になろう、そうしよう。

 そう決断していつも通り、廊下を進んでいこうとしたところ、通信が入る。

『宮間さん、僕だ』
「入江君」

 あわてて部屋に戻る。廊下で喋ってて敵に見つかったら笑えない。

「こんばんは。お疲れ様です。私、どうしたらいいですか?」
『至急研究室へ向かってほしい。すぐにだ』
「分かりました」
『室内で装置を守ってくれるかい?…あまり戦わせたくはないけれど、一番時間の稼げる防衛向きだ。着いたら連絡してくれ』
「はい。ついでに、研究室の掃除をしておくわ」
『はは…ありがとう』

 通信が切れる。…入江君、マント着けてたな…あと、ちょっとカッコよかったかも。アイリスさんあたりが大将、って投げキッスしそう。
 まあそんなことはいいのだ。私の籠城戦が決まった。なら、暇つぶしのものを持って現場に向かわなくては。携帯、リング、ハンドガン、CDプレイヤー、いつぞやからずっと変わらないイヤホン、そして万年筆。

「………」

 随分、沢山のものを持ってしまったものだ。この10年で、私は得たものが山ほどある。それは近い将来消えてなくなるものだが、それでも、私はこれらを手にできたことを嬉しく思う。

「浸る暇はないぞ!柚乃!」

 ぱちん、と頬を叩いて、研究室へと向かった。



出来そこないの感傷