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 研究室に着いた。そう連絡を入れれば、どこかにつかまっていろと言うので、入江君の指示通りにしてみた。すると、基地が揺れた。情けないことに転んだ。
 何がどうなっているんだ…?と入江君のデスクから落ちた缶ゴミを拾い、袋に入れる。揺れている時、何かが動いているような気がしたが、もしかして、すべてが四角く区切れる構造と、入江君の晴属性もとい活性の炎に関わるのだろうか。

「……」

 ジャケットを脱ぐ。紺色の七分丈は襲撃故に空調が故障気味の基地内では涼しくて快適だ。気分的にはこそこそと、実際は何の工夫もなく入江君の席に座る。そして、彼の書類を整理整頓しながら、研究資料を手に取る。

 トゥリニセッテ、10年バズーカ、タイムトラベル、パラレルワールド。文系出身の私でもわかる、夢物語のようなワードがたくさん並ぶ。それらを見て思い出すのは、この時代の沢田綱吉、雲雀恭弥、そして入江君の三人が話しているところを"見た"時の内容。

『過去の僕たちで、白蘭を倒す』

 入江君は、一体いつから、戦ってきたのだろう。10年前の時点でバズーカを当てているということは、それよりも前から何かしらの指示に従って生きてきているということ。それは、私が日本に来るよりも前の話なのだろう。

「私たち、そっくりね」

 私は自分の運命のために。入江君は自分の使命のために。私たちはずっと一緒にいながら、まったくもって一緒ではなかった。自分のやるべきことに追われて、私たちは互いの背負うものに全く興味を示してこなかった。そうやって各々、相手を守っているつもりだったのだろう。

「それでもこうして、行く先々にその相手がいるだなんて笑ってしまうわ」

 ふと、物音が背後からする。立ち上がって振り返ると、作業着姿の男が二人。

「ブラックスペルの、スパナ…と、誰?」
「ボンゴレ、彼女は宮間柚乃。ホワイトスペルの非戦闘員だ」

 ボンゴレ――――沢田綱吉。
 私はカバンに手を突っ込んでリングをはめる。一応、義務は果たさなくてはならない。

「やめろ!」「やめといたほうがいい」
「非戦闘員であれ、研究室の防衛が私の受けた命令ですので」

 カバンを捨て、リングに炎を灯そうとして、肩に手を置かれる。

「………」
「宮間さん、ありがとう。もういい」

 声の主を見上げれば、入江君だった。余裕をみせるその表情にある瞳は、苦悩に満ち満ちている。何も言えず、ただリングを外してみせれば、入江君はその苦悩をまた余裕に隠して歩いて行ってしまう。

「沢田綱吉。まずは拳を下ろしてもらおう。話はそれからだ」


 そこからは、長い話だった。
 タイムトラベル、白蘭の野望。そして入江君のミルフィオーレファミリーに対する裏切り。 
 沢田、雲雀、入江の三人で仕組んだ計画。打倒白蘭。
 そして、メローネ戦を第一段階と据えた時の第二段階、イタリアの主力戦におけるボンゴレの勝利。

「………」

 入江君が喜んでいる。今度は、瞳の中に苦悩はなく、純粋な喜び。思わず私も口元がゆる、

『いいや、ただの小休止さ。イタリアの主力戦も、日本のメローネ基地も、すんごい楽しかった』

 衝撃で固まる研究室の空気を、白蘭の楽しそうな声が響いていく。
 入江君の裏切りを笑い、白蘭はボンゴレとミルフィオーレ――――世界の命運をかけたチョイスの開催を宣言する。戦闘力の話は、ボンゴレが削ぎ取ったように見せて実は後出しでいくらでもいるというどうしようもない話になってしまっていた。

 突然立体映像の白蘭がこちらを向いて微笑む。すると連動したかのように私の通信端末が光り始める。

「柚乃チャンにはこっちにいてもらいたいかな〜。君はまだ未知数だ」
「宮間さん!端末を外せ!」
「無駄だよ、ロックしたからね」

 まぶしい、あとやたら熱いのでたまったもんじゃないと外そうとしたが、白蘭さんの宣言通り端末のバングル装着部はびくともしない。

「い、入江君、」
「大丈夫だ、大丈夫だから――――みんな何かにつかまれ!!」

 眩い光と熱と振動で、何もわからなくなった。






「……っ、?」
「宮間さん!」

 ズキズキする。床?なんか固い。…どうやら寝ているらしい。目を開けると、心配そうな顔をした入江君と、

「ちゃおっす」
「...Chaos?」
「それは言うな」

立体映像のアルコバレーノ、リボーンが見えた。…私、何かおかしいことを言ってしまっただろうか。
 起き上がろうとして両腕を支えにしたら左側が痛くて、体勢を崩したところを入江君が支えてくれる。左腕にあったはずのバングルを工具か何かで無理矢理外したらしく、二度とお目にかかれないかと思ったむき出しの肌はひどいことになっていた。

「左腕、火傷になっちまったな。正一、晴ゴテはねえのか?」

 周囲を見渡すと、まだメローネ基地にいた。奈落のような崖が見えるから、どうやら私たちがいた装置周辺は転送?を免れたらしい。私が状況を必死に把握している間に、入江君は事情がよく分かっていない若いボンゴレ晴の守護者になんとか晴ゴテを開匣させ、コテを当ててくれる。熱い、かゆい、なんだこれ…。うーん、デジャヴ。
 ふと気づく。

「入江君、腕時計知らない?」
「あ…それが、壊れちゃって」

 差し出されたのはバンド部分が破損した私の腕時計。熱でダメになったらしい。それを受け取り、ポケットへ入れる。修理を申しだされたが、断った。とても、直せるものではないし、解析されるのも嫌だったから。
 ちょっぴり微妙な空気が流れたところで、リボーンさんが声をかけてくれた。

「お前、名前は?」
「宮間柚乃です。ミルフィオーレファミリー・ホワイトスペルで非戦闘員の事務職をしていました」
「白蘭に連れていかれそうになってたよな。理由は分かるか?」

 分からない。そう思って入江君のほうを向くと、彼が勝手に話し始めてくれた。

「宮間さんは珍しい波動の持ち主なんだ。…元々、僕の友人ってだけで白蘭サンが目を付けたんだけど、入隊時に適性検査をしたらちょっと特殊だってことが分かったらしくて、そのままお気に入りになった」
「えっ私お気に入りだったんだ」
「そうじゃなかったらわざわざ腕に超ハイテクな装置を枷のごとく着けたりしないよ…こんなことになっているとは知らなかった」

 そうか、そうなのか。いまいち飲み込めない事情を無理やり飲み込みつつ、ならば何故私はここにいるのか?と疑問を投げる。

「それは、ボンゴレリングがそろったことによって結界が出来て、転送装置の効力が失われたからなんだ。…宮間さんをここに呼んでおいて、本当によかった」
「全部わかってたの?」
「白蘭サンのやりそうなことの何割かを予測したんだけど、宮間さんがどこにいたら一番安全かを考えるのが結構大変だったんだ…」
「……ごめんなさい、迷惑をかけてしまって」
「いいんだ。僕が勝手にしたことだから。……白蘭サンのところにいたほうが良かった?」
「いいえ」
「良かった!」

 入江君がここ最近で一番の笑顔だ。私も思わず笑顔になる。すると、

「うぜー」

ドスのきいた声が割り込む。リボーンさんだ。怖い。

「ご…ごめんよリボーンさん!」
「うるせえ。で、宮間柚乃、お前オレ達のファミリーになるのか?」

 想定外の発言に一瞬時が止まる。戸惑って、入江君の方を向き、スパナの方も向いた。入江君は頷いて、スパナはサムズアップ。

「白蘭サンから逃げ出した形になっちゃったから、しばらく追われる身になるよ」
「ウチは機械をいじりたいから雇ってもらった」

 ボンゴレ側は……嫌な顔はされていないようだ。ボスである沢田綱吉もなんだかいい笑顔をしてくれている。そうか、そうならば。

「ぜひ、よろしくお願いします。書類仕事はお任せください」

 私はボンゴレファミリーに転属した。 
 今度もまた、行く先に入江君がいる。



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