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「#甘々」のBL小説を読む
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『お久しぶりです。お元気ですか?こちらは変わりないです――――』

 そんなテンプレートで始まる手紙の差出人は入江君だ。筆跡は万年筆だ。どうやら、彼も万年筆を持っているらしい。……てっきり、私は彼がシャーペンやらボールペンやら、文明の利器信奉者だと思っていたのだが、メールの時代に手紙を送って来たり、実は未だにCDで音楽を購入していたり、意外とアナログなところがあるようだ。何でわざわざ手紙なのだろうかと思っていたが、それは同封されていたもので分かった。BLOOD+PEPPERSの新曲、アメリカ限定盤だった。私も私である。

 手紙には彼の進路についても書かれていた。入江君はイタリアで就職する。なんだかよく知らないが、すごいところに就職したらしい。自分の興味があることを研究しながら仕事ができるのだというから、本当にすごい。だって、それだけ彼が優秀であり、それを認めてもらえているということなのだから。

 私はというと、ことごとく落ち続けている。どんなに面接が上手くいっても、筆記試験の成績が良くても、ことごとく。御断りの電話が来るときは、だいたい相手の声が恐怖で引きつっているのだが、どういうことなのか。私は素面で人を脅しているのか?酒が入ったって誰一人泣かせたことはないのに。

 まあそんなことはいい、返事を書こう。そう思って机の前に座り、万年筆と便箋を引き出しから取り出す。そして、いざ書かん!と思ったところでチャイムが鳴る。
 ドアを開ける――――言葉を失う。

「君が宮間柚乃チャンか」
「…失礼ながら、どちら様で?」

 嘘を言った。知っている。知っているが、会ったことはない。冷汗が背中に滲む。気持ちが悪い。真っ白な男は私を一通り眺めて、ニコリと笑いかけてくる。

「僕は白蘭。君の採用試験をしに来たんだ♪」

 この一言で私の緊張は一気に失せた。
 就職できない原因、こいつかもしれない。



 仕方がないので少し待ってもらってから彼を部屋に上げる。入江君からの手紙やCD、万年筆と便箋、ちょっと投げておいた洗濯上がりの洋服などを片っ端からクローゼットへ詰め込み、冷えた麦茶をグラスに入れてテーブルに装備し、姿見で自分の姿に問題がないかを確認してから彼には入ってきてもらった。
 白蘭は何というか、浮いていた。そんな男がテーブルについて麦茶を飲んでいるのだ。もっと浮いている。

「実は君の調べはあらかたついているんだ」

 私が麦茶のおかわりを注ぐと、満足そうに微笑む。

「宮間柚乃、日系イタリア人の22歳。日本の大学で社会学を学び、特に歴史分野に興味を示している。趣味は音楽鑑賞、言語習得で、現在日本語、イタリア語、英語、ロシア語を理解することが出来る。ウチの正チャンとは中高が一緒で、ずっとお友達なんだってね」

 うわあ…プライバシー侵害じゃん…とか思ったがそれは無事にゴックン飲み込んだ。ちょっとだけ引いてしまったがこれはご愛敬ということにしてほしい。

「入江君をご存じなんですね」
「僕の親友さ。――――こんな友人がいるとは聞いたこともなかったけれど」
「あなたに説明するほど、私は重要な人間ではなかったということでしょう」
「そうかなー?まあ、なんだっていいんだ」

 本当にそうだ。だからそんな私に何かを見つけ出そうというような目を止めろ。…そうとも言えないので黙っていた。いくら"見た"ことがあるといっても初対面なのだ。たとえ私が彼を知っていても、彼が私を知っていても、礼儀くらいは守ってほしい。無理だろうが。

「僕は僕のミルフィオーレファミリーに君を勧誘しに来たんだよ」
「勧誘とは言っていますが、実質命令では?」
「よくわかってるね」
「昔から人権を奪われがちなので慣れています」

 私の就職先はミルフィオーレファミリーというのか。いや、"見た"時にどう見ても一般的な職場じゃないなあとは思っていたから、裏社会で就職することはよくわかっていたけれど、この男に直接引き上げられて就職するとは思いもしなかった。

「正チャンの味方をしてくれる子が欲しいんだ。あんまり一人だと、カワイソウだもんね」
「はあ…そうなんですか…」
「そうだよ。知らないかもしれないけど、結構胃痛で苦しむタイプだし」
「――――って、え?入江君、そこにいるんですか?」

 余計なことを口走りそうになったのを鋼の意思で止める。
 私が彼の就職先についてちょっぴり知っているなんて思われたくない。

「知らないんだ?ふーん…」
「私は彼にとってそんな大層な人間ではありませんので」

 そう念を押せば、白蘭はようやく追及の目をするのをやめた。ガサゴソとポケットを漁り、リングが七つテーブルに置かれる。

「そうそう、採用にあたって、君の属性を検査しないとね」

 さ、指にはめて!と順番にはめられていくが、うんともすんともいうわけがない。だって、指輪じゃあないか。

「ん〜何だ…?どの属性でもなさそうだ…」

 そう思っていたのだが、なんだかそういう話ではないらしい。……もしかして、私はトゥリニセッテにおける大空の7属性の話をされているのか?だとしたら少し不味い。待ってくれ。

 大空の属性持ちであることがバレたら、私はバックボーンを更に追及されるのではなかろうか?――――そうしたら、妹とのつながりやトゥリニセッテにおける我が一族の話とかそんな規模のでかい話になってしまう。そして何より、私の"存在価値"が失われる可能性すらある。まずい、そんなのはとてもよくない!

 六つ目の指輪、霧属性が反応なし。最後に大空属性の指輪をはめられる。

「これかな〜?」
「………」

 背中が冷汗で気持ちが悪い。心臓が嫌な動きをしている。口の中は乾く。そんな私の緊張などいざ知らず――――指輪は何の反応も示さなかった。


「あれ?違うのか…ちょっと待ってね♪」
「はい」

 徐に立ち上がった白蘭は外に出て行った。

「………シヌカトオモッタ」

 私はうなだれた。
 本当によかった。大空の指輪をはめてもうんともすんともいわなくて。…本当に、私の定めの日までのカウントダウンが今日で強制終了するところだった。危ない、危なすぎる。
 バァン!と扉が開かれて白蘭が戻ってくる。

「これとかもはめてみてよ、何の指輪かは良くわからないんだけどさ」
「ええ…」
「仕方ないじゃん、最近発掘したてなんだよ」

 指輪って発掘されるものだったのか?こんなに立派なのに?どう見たって古代のものではないぞ、近代だぞ?マーレリングの様に羽がついているわけでも、ボンゴレリングの様に紋章が入っているわけでもなく、ただ綺麗な石がついているだけだけどちょっときれいすぎて怖い。

「実は僕もこれが何なのか分からなくてさ〜」
「そんなもの大丈夫なんですか?!」
「だめだったらその時♪」
「うわあ…」

 入江君が胃痛って話、本当かもしれない。こんな人に振り回されたらそりゃあ身体のどこかが痛くなったっておかしくない。
 というか、この指輪。冗談抜きで何かを感じるから良くないのではなかろうか。慎重に観察をするがどこかのマフィアの所有物だったという形跡はない。…これほどのものだったらどこかが管理していたのではないかと思う。

【いいから着けてみろ、小娘】

 突然飛ばされる。身体がじゃない、精神がだ。
 何もないのに、懐かしい感覚に包まれる。

【シモンの指輪でもないし、まあ、お前がいるというイレギュラーに付随して生まれた"おまけ"に過ぎぬ。他の世界線には無いものだ】

 これがいわゆる精神世界というものなのだろうか。しかし、対峙している相手は確実にこの世のものではない気がする。

【お前が言うところの"運命"だと思っておけばいい。お前にしか使えん。ほら、実際に着けてみろ】


「――――あ、」

 意思が身体に戻ったときにはすでに氷の様に冷たい、白い石の指輪が着けられていた。そして、透き通った冷気のような何かが炎の様に揺らめく。

「キミ凄いね!!――――気に入った!」

 これも、あれも、といろいろ試されるが、結局私が反応を起こせたのはこの白く、氷のような指輪だけだった。…ちょっと身体が冷たいというか、寒く感じるんですけど気のせいですかね?ダイジョブですか?OK?

「柚乃チャン、4月からイタリアおいでよ!」
「はい?」

 この指輪は持っててね!とマモンチェーンとやらを巻き付けた状態で半ば強引に押し付けられる。い、いらない…。

「所属は第2ローザ隊。正チャンと一緒にしておくよ」
「はあ…わかりました」

 就職先がマフィアなんて知れたら、お母様は泣くよな…とは思ったが、もうどうしようもない。ごめんなさい、お母様。ユノはマフィアになります…。

「あの…この指輪?なんか光るやつ?って何ですか?」

 返事をしながら、疑問に思ったことを聞いてみる。

「それはね、マフィア界における"リング"。その炎は、おそらく、大地の7属性の1つ"氷河"。僕も文献でしか見たことはなかったけどね。そして、」

 白蘭は笑う。

「君の覚悟の現れだよ♪」


にせものの火が騒ぐ