無愛想サンタからのプレゼントクリスマスの夜はイルミネーションでいろいろな輝きに満ち溢れている。
そのせいか、すれ違う人々の顔もどこか明るげで、一人で歩く女の子も今から彼と待ち合わせなのか、軽い足取りで去っていく。
「いいねぇ、クリスマス」
「何が」
「わたし、今年もひとりぼっちで過ごすはめになるんじゃないかと思ってた」
今年は一人じゃない。
なんたって、隣にはわたしの大好きな黒鋼がいるのだから。
「あのな」
その、わたしが何か別の世界に悦として浸っている最中にそれをぶち壊す、隣を歩く男。
「いつから俺とお前はそういう仲になった」
……
「あー、もう。これだから黒鋼は…」
別にいいじゃない、クリスマスなんだし。
甘い夢、見させてよ。
「へいへい、すいませんね」と悪態をついてみたりして、わざと二人の間に距離を置かせた。
「俺は、何だよ」
「べっつにー。……あーーっ!!」
突如上げる、かん高い声。
それに耳をキーンとさせたのか、思わず顔をしかめて耳を塞ぐ黒鋼。
それに構わずわたしはわたしの瞳を奪ったものへと一目散に駆けていった。
「くろがねっくろがねっ!これ可愛い!!これ!!買って!!!」
ある、アクセサリーショップのショーウィンドウ。
そこにいちばん真ん中の目立つ場所に飾られた、シルバーにキラキラしているブレスレット。
その輝きに負けず劣らず目をキラキラさせながら、なおかつショーウィンドウに貼りついて跳び跳ねるわたしのもとに重たーい足取りで黒鋼がやってきた。
「そーゆーのはへらいのに頼め」
だが、一目ブレスレットを見た途端素っ気ない言葉を残してそそくさと歩いていってしまう黒鋼。
「やーー。クリスマスプレゼントに買って」
「俺ぁそんな祭興味ねぇから関係ねぇ。だから、そういうの好きそうなあの魔術師に頼めばいいだろ」
「黒鋼からがいい」
「却下」
かろうじてわたしは彼の腕を掴み引き留めていたが、彼はどうともしていないようでわたしを引きずるようにして街中を去った。
「……」
本当に素直な気持ちで、ただ黒鋼からのプレゼントが欲しかったわたしは、クリスマスという楽しい雰囲気とは裏腹に暗い気持ちを抱えながらただ黒鋼の後を追いかけるだけ。
「元気ないねぇ、雅ちゃん」
出る前はあんなにるんるんだったのに、と、ちらりと横目で黒鋼を見ながらもくもくとチキンを頬張る雅を気にした。
「どーしたの、クリスマスだよー?」
「どうでもいいもん」
「えーー?」
「わたしはクリスマスに興味ないからそういうの関係ないんだもん!」
グサリ。
と胸に刺さるものを感じたのは黒鋼だ。
「あ、ごちそうさまー?」
「ごちそうさま!」
そのうえ、いつもはお喋りばかりで食の進まない雅が誰よりも早く食べ終わるなんて。
そして食後もテーブルから離れずに喋り続ける雅が、それもせずに素直に(いや、投げやりに?)部屋に戻っていくなんて。
「おい、へらいの…」
「何ー?言い訳?」
「……街までちょっと、ついてこい」
夜。
夢を見た。
とてもいい夢で、でも切なくなる夢だ。
黒鋼と街を歩いてて、同じようにあのショップでブレスレットを見つけたわたしは同じように彼にプレゼントをねだる。
そうすれば、さっきと同じように断るかと思ったのに、なんと彼は快諾して買ってくれたのだ。
華やかなラッピングつきで。
これがさっきだったら、と思えば思うほど切なくなる。
夢の中の黒鋼はいつも優しいのに。
夢から覚めかけでうつらうつらとそんなことを考えていたわたしの耳に、微かだが部屋の扉が開き、足音がして、今度は扉が閉まる音が入った。
何だろう、と寝ぼけた頭では全く分からず、いつの間にか眠りにつくわたし。
枕元にそっと置かれた、ラッピングをされた小さな小包に気づくのは、まだもう少し先のことだ。
(了)
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