「やだぁ!かーわーいーいー」

「何が"かーわーいーいー"だッ!俺で遊ぶな!!」





せっかく似合っているのに。

黒鋼はあたしが純粋にそう思っているのにも関わらず、ぶつぶつと文句を言っては眼鏡を外してしまう。


「何で外しちゃうのー」

「遊ばれてる感が満載なんだよ」


怒りん坊。

ねぇ、黒鋼は知ってるの?

あたしとファイはね、黒鋼がいない時はあんたのこと"怒りん坊"って呼んでるんだからね。

小狼とサクラだって、"怒りん坊"が黒鋼のことだってこと、何も言わずとも分かってるんだからね。


「たまにはあたしの言う通りにしてよー」

「いつもお前のやりたい放題じゃねぇか」

「……ぶー」


怒りん坊怒りん坊怒りん坊怒りん坊怒りん坊怒りん坊!

眼鏡かけるくらいいいじゃない。

似合ってるんだから。

あたしが選んだ服を着てくれたっていいじゃない。

何でも着こなせるんだから。


「怒りん坊」

「あ!?」

「怒りん坊ッッ」


どっちがだよ。

そんな顔したね、今。

もしかしたら、あたしがいないところではあたしのことを黒鋼とファイは"怒りん坊"って言っているのかもしれない。

それで小狼とサクラは、それが何も言わずともあたしのことだと理解していたりして。

そのうえ、あたしと黒鋼がセットでいないときにはきっと"怒りん坊コンビ"とかファイが笑って言っているんだろう。


「嫌」

「ああ?」

「あたし黒鋼よりは怒りん坊じゃないもん」

「何の話だよ」


いつも怒っている女の子は可愛くないらしい。

ふわふわしてて、朗らかで、笑顔が可愛い娘、身近なところで言えばまさにサクラみたいな娘が男にとっては安心できる存在なのだとか。

もし、あたしが本当に怒りん坊だとしたら?

黒鋼はあたしと一緒にいても安心できていない、そういうことではないだろうか。


「あでっ」


不意に眉間に衝撃が走った。


「ででっ」


その次は頬。

むに、とつねられているような。


「いはい(痛い)」


痛みの犯人は黒鋼だった。

痛い、と言えば、あたしの頬をつまんでいた指を離して眉間を指でトンと突く。

あ、最初の衝撃はこれだったのか。


「眉間に皺寄ってんぞ」


そしてニ、と笑う。


「…――ッ」


不覚にも頬が紅潮してしまったのが分かった。

それをごまかすように「く、黒鋼だっていっつも眉間に皺…!」と言うが、後半は焦りすぎたのか、自分でも何を言ってるのか分からなくなってしまう。


「男は別にいいんだよ」

「っ屁理屈!」

「女は笑っていたほうがいい」


……!

じゃあ、怒りん坊なあたしは。

いつの間にか自分を怒りん坊だと認めてしまったあたしは、らしくもなくシュンとする。

だけど、黒鋼はあたしの眉間から皺が消えたことを確認すると指を離し、ぐしゃ、と一度だけ頭を撫でた。


「いつもみてぇに笑ってろ」

「ッ」


たまに、こいつは人の心をプライバシーもなく読んでるんじゃないかと思う時がある。

今がその時だ。

でももし、これが心を読まずにあたしの心を晴れさせてくれたのならば。

ただの"怒りん坊"ではないのだと、ファイ達に教えてあげよう。



(了)

 


[*prev]  [next#]

[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -