4,愚痴は黙って飲み込める男であれ







「ちょっと、聞いて」


こう繰り出せば、黒鋼は"またいつものか"、という風なあからさまな顔をして、しかし「何だ」と聞き返してくれる。


「さっき外に空気吸いに行ったらさぁ、おばさんが……」





そこからしばらく続いた愚痴、しかし黒鋼はその全てに相づちを打ちながら(空返事もあっただろうが)受け止めた。


「さぁ!!黒鋼も好きなように言ってごらん!」

「はぁ?」

「愚痴よ、愚痴!たまってるでしょ、聞いてあげる」


お返しのつもりで言ったが、その瞬間の彼の顔は"ほぼ毎日愚痴を聞かされてうんざりだ"のような顔だった。


「…いや、そんなのねぇよ」


そうして、気持ちを紛らすようにマガニャンに視線を落とす彼を見て、少し申し訳なくなった。





5,調子のいい言葉を言わぬ男であれ







「黒鋼ー」

「ああ?」

「愛してるって言ってみて」


背中にのし掛かりながら言うが、ぺいっとはね除けられて「誰がそんなこと軽々しく言うか」と耳まで赤くしながら言った。

言わなさすぎるのも困り者。





6,堂々と、秘密を作らぬ男であれ







「黒鋼って、牛乳嫌いなんだっけ?」


不意に問えば、「俺に嫌いなものはねぇ」と明らかに意地を張っている口調で言い切られた。


「本当に?」

「ああ」

「本当の本当のほんっとーに大丈夫なの?」

「……」


半分脅すように何度も聞けば、最後にぽつり、


「…飲めねぇわけじゃねぇ、苦手なだけだ」


と負けを認めたくない彼らしい答えが返ってきた。





7,約束を守る男であれ





明日は朝5時に起こしてね。





これが昨日の夜、寝る前に黒鋼にお願いしたことだ。


「おい、5時だぞ」


基本早起きの彼は5時ちゃっかりに部屋に入ってきては私を起こそうと試みたのだろう、まずは声をかけてくる。


「早く起きろ、5時に起きるんだろうが」


声だけでも起きなければ、ゆさゆさと体をゆする。

しかし手強い私は「うるさいなぁっ」と彼のその手を弾き、もそもそと深く布団に潜り込んでいく。

ピキ、

彼の血管の浮かび上がる音が聞こえた気がした。


「てめぇが朝5時に起こせっつーからわざわざ起こしに来てんだろうが!!」


私の行動が気に食わなかったらしい黒鋼は布団の端を掴んで思いっきり引っ張り、布団ごと私をベッドの下に落下させた。


「いい加減起きろ」


最後の締めに枕をぽすんとお腹の上に落とし、私が完璧に目を開け、恨めしそうに見るのを確認すると「疲れた。俺ぁもう一度寝る」と頭を掻きながら呆れた声音で部屋を出ていった。

約束を守ってくれたというのに、あんな仕打ちしてごめんなさい。





誠実な男の七戒、男よ、誠実な男であれ。



(了)

 


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