男よ、誠実であれ1,よく食べる男であれ
「今日の晩飯は」
午後8時ちょっと過ぎ、明らかに晩ごはんができたのを見計らってキッチンへ顔を出した黒鋼が、蓋をしてあったフライパンの中身を勝手に覗きだした。
「ちょいちょい、そっちで待っててよ」
「魚か、悪くねぇ」
"悪くねぇ"じゃなくて、魚がいいんだろ!
そう思ったが口にはせず、「戻った戻った」と彼の背中を押してリビングに追いやった。
「醤油」
「しょうゆ?」
あまり聞き慣れない言葉に聞き返せば、
「台所にあったろ、黒いの。それが醤油だ」
黒いやつ。
それを頭に叩き込んでキッチンに行き、黒いやつを探す。
「これ…かな」
「何かドロドロしてねぇか、これ」
魚にかかったそれは確かにドロドロしている。
でも黒いやつだし。
「あー、それソースだねーー」
横からご飯を頬張ったファイが助言をしてくれた。
「そーす?」
「黒様知らないの?調味料だよ。あまり焼き魚にはかけないかな、まぁ、食べられるとは思うけど」
私の国では調味料といえば砂糖や塩くらいしかなかったから、よくわからないが。
黒鋼はソースとやらのかかった黒光りした魚の欠片を箸で掴み、それと睨み合ったあとぱくりと口の中に放り込んだ。
「……ど、どう?」
「少し甘いな、だが食える」
悪い味ではなかったらしく、その後もしっかり食べてはご飯と余分に焼いてあった魚(今度はちゃんと醤油をかけて)をおかわりし、ひと休みしたあと彼は部屋に帰っていった。
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