いざよふ

http://nanos.jp/izayou/
※松陽先生企画提出・祓い屋パロ




其の重み

 昔から、人には見え無い物が見えた。其れは余りにも当たり前の事だったので、松陽自身は見える事に対しての恐怖心は無い。
 其れでも見えぬ人には恐ろしい様で、妖退治の真似事をさせられた。だがその大抵は人間の仕業か勘違いで、妖の仕業では無い事の方が多い。
 そんな中、松陽は子鬼が出ると云う噂を耳にした。鬼の噂は良く耳にするが、子鬼とは亦た珍しい。松陽は物見遊山でもするのかと云う程気楽に、其の子鬼を見に行く事にした。
『戦場跡で屍を喰らう子鬼が居る』
 其の噂は既に近隣の村々にまで広がって居り、辺りに人の影すら無かった。在るのは夥しい死体、死体、死体。そして其れを貪る鴉のみ。普段なら死体から甲冑や刀を剥ぐ浮浪者や孤児の姿が見られるのだが、其れすら見えぬ。
「此れは此れは、噂は本当の様ですね」
 其処に居たのは、刀を持った独りの白い少年だった。其の髪も肌も白い子鬼は、薄汚れた襤褸布を纏い、ギラギラと光る瞳で此方を疑わしそうに睨み付けた。
「おまえ、だれだ」
 舌足らずな声は、幼い乍らも鋭く響く。其れが此の少年の生い立ちの厳しさを物語っていた。
「私ですか? 私はしがない祓い屋です」
「はらいや?」
 尋ね姿は愛らしいが、刀は未だ此方に向いたままだ。警戒の緩んだ様子は無い。
「物の怪と人の間に立つ者の事です。そう言う貴方は何者ですか?」
「……銀時」
「おやおや、祓い屋に名を明かすとは。随分と間抜けですねえ」
 くすくすと笑う松陽に、銀時と名乗った少年は益々刀を持つ手に力を込める。
「祓い屋はね、名前を使って呪いを行い、相手を使役するんですよ」
「シエキってなんだ」
「自分の思い通りにしてしまう、と云う意味です」
 途端にその小さな肩が震えた。少し怖がらせ過ぎただろうか。
「おれをどうするつもりだ」
「そうでね……。とりあえず、私の家に連れて帰って、一緒にご飯を食べて、夜は添い寝してもらいましょうか。あ、その前にお風呂にも入って貰わないと」
 松陽の言葉に、銀時は更に凍り付いた。然しその表情は先刻とは違い、鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をして居る。
「私の元にお出でなさい。銀時」
 其う言って差し出した手を、銀時は拒まなかった。其れが嬉しくて、思わず頬を綻ばせた。
 抱き上げると其の躰は大層軽かった。丸で重みと云う物が無い。
「帰ったら先ずご飯ですね」
 途端にぐうと鳴る銀時の腹の虫に、松陽はまた笑って頭を撫でた。



next

松陽先生企画の『幾久しく』に提出させて頂きました。松陽先生ラブ!
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -