■ 

再び目を開けた名前は病院の一室、のような場所にいた。

「(知らない天井だ)」

好きだったアニメのワンシーンを思い出す。
喉が渇いた、声が出ない、起き上がる力も出ない。自分に何が起こったのか。

「(確か夢の中で…)」

凄く痛くて、思い出してハッとする。
ここは、どこだ。夢か現実か。
さぁっと血の気が引いていくのが自分でもわかった。あの夢は、あの場所は、あの痛みは本物だった。自分は何をされた?

スーッと扉が開く音がした。顔を動かせないので目だけでそちらを伺う。黒いスーツの男が話しかけてくる。この男は夢の中で装置を動かす前に見た、なんらかの指示を出した彼奴だった。

「こんにちは苗字名前さん。私2200年度時の政府管理代表の…そうですね、菖蒲といいます。」

2200年度…?聞きなれない西暦に聞いたこともない政府。というか明らかに今偽名を使われた。顔に出ていたのか菖蒲と名乗った男は語りだす。

「声も出ないのはそれだけ負担が大きかったということですね、まぁ初めての本霊降ろしの成功者ですし、当然かと。あ、お水どうぞ。」

ベッドをリクライニングして水をくれた。できる限りの会釈をして頂いた。

「さて何から話しましょうか、先程申し上げました通り、今の西暦は2200年、22世紀の最後にあたります。私達は貴女からすると未来の人間、ということになりますね。」

ここからは長くなりますが、と区切り菖蒲は続ける。

「我が国日本は技術の国です。貴女の時代でもそれは変わらないと思いますが、歴史に残る第二次大戦の後、我々は医療や科学といった面で世界に有能な人間を輩出していましたね。貴女の時代から少しして、我が国は最初の時空間移動の術を発見いたします。それはごくごく小さなものを瞬間移動させるだけのちっぽけなものです。ですがそれから何年かして次は物体を過去に或いは未来に飛ばす術を、そしてまた何年かして人体を飛ばす術を開発しました。」


ドラえ○んでいうタイムマシンが完成したということか。未来すごい、てか日本すごい。

「我々日本の国民だけでなく世界中の誰もが驚き讃頌しました。最初は良かったのです、世界中の科学者や権威あるものしか使用が認められていなかった頃『歴史の偉人に会いたい』、『教えを請いたい』、『失われた国宝を見てみたい』彼らはそう望み、実際に教えを乞うてきました。それだけならまだ良かった」

確かに私も江戸城とか残ってたら見てみたいもんなぁ

「ですが技術が進み、タイムリープがより広く知れ渡ると『あの時あの場所であの偉人が死ぬのは間違っている』、『あいつさえいなければ戦争は起こらなかった』、『あそこであの人がこうしていれば今頃』など自分勝手にも歴史を否定する輩が現れたのです。」

「また時間を操る、ということは即ち死という概念の喪失です。親しい者が亡くなればその事実を捻じ曲げようとする人間は多かった。結果、歴史修正主義というほぼ宗教に近い組織が現れました。彼らは街でデモを行いネットに言葉巧みな広告を掲げ、組織としての活動を大きくしていきました。ですがタイムリープは政府の者でも上層部しか人間は送れず、専ら科学者や歴史家の方しか使えないという状態だったので問題はさしてありませんでした。そして2198年」

菖蒲はそこで一度言葉を切った。

「歴史修正主義の者達はどこから手に入れたかタイムリープを始めました。そして見事に第二次大戦を日本の勝利へと導いてしまった。結果歴史は変わり知らない間に日本という国が世界で1番権力のある国へと変わってしまった。そこで私たち政府も二分しました。」

彼は現政権の首相が歴史修正主義組織の一員だったのです。と静かに告げた

「彼は自分の国が世界一であって欲しいがために歴史修正を行い、我々はそれに納得できず新たに時の政府というものをたて、歴史修正主義組織くわえて現政権と対立しています。」

「そして歴史修正とは死ぬ筈の者が生きていて生まれるはずだった者が死ぬという現実にぶち当たります。私達は歴史を変えんとする輩と戦うために付喪神を降ろし戦わせるという案を立てました。それには高い霊力を持つ者がまず本霊を降ろしそれらを分霊として多数の戦力を、と計画していました。」

「それを考案した人間がとても高い霊力の持ち主だったのです。彼を菊としますが、菊は本霊を降ろすための装置をつくり、あとは降ろすだけとなった時に消えました。比喩ではありません、目の前から消えたのです。理由は簡単、どこかの時間軸で彼の先祖となる人物が死んだのです、歴史修正の副作用として」

「死ぬ筈の者の子孫だかが犯罪を犯し本来なら死なないものを殺めてしまった。ゆえに彼は消えた。彼を助けるには歴史修正を阻止すればいい、私達は悲しみも束の間、本霊降ろしのために他の霊力の高い者を探しました」

「私たちはまず菊の家系から、またその他の自主的な方々から何度も実行しましたがもともと菊は霊力の質も高く清くそれでいて量もある稀な人間だったのです、残念ながら成功するものは誰1人としていませんでした。そこで我々は過去を探すことにしました。そして菊の霊力を上回る貴女様をみつけたのです。」

菖蒲は椅子から降りて地面に頭をこすりつけ所謂、土下座をした。

「突然で申し訳ないとは思っております!貴女にはまだ関係のない未来の者たちが勝手に起こした勝手な戦。それに協力して欲しいのです!貴方を部屋へ案内した者も野蛮な風貌をしていたかもしれません、それは我々が『時の政府』と言っていますが所詮はほぼ破落戸の集まりとなっているのが現状です。我々は今政府に楯突く謀反者。もし政府にバレればただでは済まないでしょう…ですが歴史を変えて言い訳はない!!」

最後は泣きそうな声だった。そこで気づく。あぁ彼も大事な人をおそらく家族を消されてしまったのだろう。

「…顔を、あ、げて…下さい…」

声が上手く出ない。しかしそんな私の小さな声を拾った菖蒲はバッと効果音がつきそうなくらい勢いよくこちらを見た。

「わたし、やり、ますよ。協力し、ます。」

歴史修正したい人の気持ちも分からないわけではない。日本史が好きな私は新撰組や攘夷の坂本龍馬などを尊敬というか憧れてるし。会いたい。死なせたくない。でも。

「起こってしまったことの上に今の私達がいるんだと思います。それで後悔して、次はそうならないように、って。そうやって進んでくのが、人間ですもんね」

しっかりと声を出してそう言いへにゃりと笑うと菖蒲はありがとうといって右手で目を隠した。



.

[ prev / next ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -