10月も半ばになると辺りはすっかり秋色に染まり、先程まで晴天が広がっていたはずの空はすでに日が落ちていた。
夜風が冷たくて、あたしはカーディガンの袖を引っ張った。
カラオケ店に背を向け歩き出したとき、後ろからあたしの名前を呼ぶ声がした。
「滝田!」
驚いて振り返る。見慣れた顔があたしを追い掛けてきていた。
「雪平」
「あー……良かった。まだ近くにいた」
走ってきたのか、顔を赤くして雪平が荒く息をつく。あたしがいなくなったことに気付いてすぐに探しに来てくれたのだろうか。そう思うとなんだか嬉しくもあり、良心が痛む気持ちもある。
雪平を見上げると、彼と目が合った。
「帰んの?」
「うん。やっぱりいまは、大騒ぎできるテンションじゃない」
「そうか」
昼間のように強引に引き留められるかと思ったが、違った。雪平は真面目な顔をして、なにか考えるように頭を掻いていた。
「ごめんな」
「え?」
「無理に連れ出したりして」
思いがけない言葉になにも言えなくなる。無言で見つめるあたしの代わりに、雪平が続けてくれた。
「少しでも他のことに集中してた方が、ひたすら彼氏のこと考えてるより楽なんじゃないかなって思ってさ」
照れ臭そうに、半分申し訳なさそうに、雪平が視線を外す。
あたしはなんだか感動してしまって、返すべき言葉が分からなくなる。なんだ、つまり、雪平は雪平なりに心配してくれていたのか。
寒空の下、沈みきっていた気持ちが少しだけ暖かくなって、あたしは照れ笑いを浮かべた。
「ありがと」
「いいえーこちらこそー」
雪平もどことなく恥ずかしそうに適当な返事で誤魔化している。芹香といい雪平といい、あたしは良い友人に恵まれている。
ふたりとも言葉を探して黙り込んだあと、雪平がぼそぼそと口を開いた。
「家まで送ります、か?」
「あはは、なんで敬語なのー」
「紳士な態度を見せとこうかなと」
軽口を叩いてみせるものの、いつになく雪平が優しい。なんだかくすぐったい気持ちになる。