「初めからあんたとその彼の足並みは揃っていなかったってこと。彼は浮気をする男だった、けれどあんたは浮気されてまで一緒にいることを幸せだとは思わない。だったら無理せず、あんたを幸せにしてくれる男と付き合うべきだわ」
そういうの、価値観の相違って言うのよ。
最後をそう締めて、彼女はひとまず口を閉じた。
一気にたくさんの発言が飛び込んできたせいで頭のなかがひどく散らかっている。なんとか整理することを努めようと、こめかみを押さえて唸り声をあげた。
つまり、あたしと陽くんが別れたのは、お互いの価値観が食い違っていたというのが前提にある。……ってことでいいのかな。
しかしながら、いくら浮気をされて別れたとはいえ、彼女の言葉をそのまま受け取るのは不服だった。これじゃまるで陽くんが浮気を繰り返す最低男みたいな言い分だ。あたしが庇いだてするのもおかしな話だけど、たった1回の浮気なんて単なる気の迷いかもしれないのに。
あたしの心を読んだのか、それとも考えていたことが顔に表れてしまっていたのか、彼女はまたなんでもないかのように言ってのけた。
「ちなみにね。彼の浮気、きっとこれが初めてじゃないよ」
「え、」
「これから彼女と会うって分かってるときに、わざわざ他の女と寝るなんてハイリスクなこと、1回目の浮気ですると思う?」
「………」
彼女の言葉はまっすぐすぎて、逃げ道が見つけられない。
もう怒りすら沸いてこないのは、箱のなかから順番に取り出して並べたような正しすぎる言い分に、これ以上抵抗する余力が残っていないからだ。
告白の時点で愛なんか語っちゃう男、ちょっとどうなのって思うけどね。
芹香の言葉が頭蓋骨の内側で反響する。ぐわんぐわんと騒ぎ立てるそれは、あたしの脳味噌を揺らしてゆるくとどめを刺した。
ああ、そうね。そうだったわ。芹香、あなたの言うことはやっぱり間違いじゃなかったみたいよ。少なくとも、あたしが信じた美しい思い出たちよりは。