15


 どうしてこうなっちゃったんだろう。どうしてこんな終わり方をしたんだろう。
 惨めでつらくて悲しくて、けれどもいまだに彼の笑顔を想うと疼く胸に、無意識に眼球が潤んでいく。涙も渇れ果てる、なんて表現は嘘だと思った。
 一気に話し終えて鼻をすするあたしを、彼女はなにも言わずに見つめている。多少ぶっきらぼうだとしても慰めの言葉をいただけるのだろうと頭のどこかで期待していたあたしは、彼女が発した次の言葉で声を失った。
「え、それだけ?」
 いまにも溢れだしそうだった涙が引っ込んだ。
 無言のまま視線を返せば、聞き始めと同じく頬杖をついた格好で、真顔であたしを眺める彼女がいる。
 それだけ、って。よりによって自分の誕生日に浮気された女の子に対して、それだけ……って。
 このひと、いまの話ちゃんと聞いてた?
「相手はあんたと一緒にいたいって言ってるんでしょ。いいじゃない、いままで通り付き合ってれば。あんただって彼と一緒にいたいんでしょ」
 そうやって彼女は平然と言ってのける。あたしはあんぐりと口を開けた。
 浮気するような男は別れて正解だとか、そんな男は早く忘れるべきだとか、友人たちに言われた言葉からびっくりするくらいかけ離れている。
 返す台詞が見つからない。
 呆然とするあたしをよそに、彼女の鋭い発言が次々に襲いかかってくる。
「浮気されたから離れようって思うのは、浮気をされて傷ついた自分が可哀想だからじゃないの。どうしようもなく好きって本当に言える相手なら、どんなに傷つこうが浮気程度じゃ自分から離れたりしないね、私は」
 尖ったナイフであたしの心をザクザクと切り裂きながら先へ進む彼女は、容赦などしてくれる気配もない。
 似たようなことを他の誰かに言われたら泣き叫んで逆上しそうなものだけど、彼女があまりに整然としているので取り乱すことすらできなかった。
 言われた内容を一拍置いてから反芻する。ゆっくりと味わうように頭に並べ、ようやく意味を飲み込めた。
「う……浮気を容認しろっていうの?」
 時間をかけてやっと言えた反論がそれだった。
 非難するというよりも、次はどんな恐ろしいことを言われるのかとビクビクしながら返した言葉にはまるで力が入っていない。
「いや」
 思いがけず、彼女ははっきりと首を横に振った。




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